バッカスに接吻された大地、ピエモンテ州・ランゲ

バッカスに接吻された大地、ピエモンテ州・ランゲ

モンフェッラートからロエロ、そしてランゲのなだらかな丘陵地域がピエモンテのブドウ畑の景観として世界遺産に登録されたのは2014年。行けども行けども、やさしい緑の葉をワサワサと茂らせたブドウの木が、どこまでも私たちを追いかけてくる。モンフェッラートの麦畑やトウモロコシ畑とのパッチワークもかわいらしいけど、ランゲに南下するとそこはもうブドウ畑一色! まさに酒の神バッカスに接吻された大地が広がっています。

ボトルの向こうに造る人の顔が見えてくる、ワインの魅力!

ボトルの向こうに造る人の顔が見えてくる、ワインの魅力!

何世紀にも渡り、その場所で整然と作られてきたブドウたち。若木の頃は生きいきと、みずみずしい果実をつけ、一年重ねる度にその実が少しずつ小さくなっていっても味わいは逆に深みを増し時期が来たら世代交代もする。
おお!? まるで、人生を見ているようではありませんか! 確かに畑でのブドウの育て方一つにしても、生産者によって変わってくる。大型機械を入れて耕起をし、農薬をしっかり散布する畑もあれば、その林の向こうでは昔ながらの青いボルドー液の入ったタンクを背負って、レバーをプスプスやっている人もいる。先生の言うことを素直に聞く生徒のようだったり、反抗的でグレちゃう生徒のようだったり、そんなところまで人に似ています。
収穫されてカンティーナに運ばれてからも、何がなんでもワインに目指す個性をだそうとするワイン生産者と、自然に任せてのびのび育てたい生産者がいる。そんな様々な生産者の顔がボトルに見えてくる。千差万別のおもしろさがあります。

近代的製法から伝統的なワイン造りに転換した若い生産者は

近代的製法から伝統的なワイン造りに転換した若い生産者は

例えばある若手の生産者は、昔は畑で農薬を用いることになんの疑問もなく、ブドウを栽培していたと言います。ブドウを病気から守るための当然の作業だと。
その若い生産者はワイン造りの勘に優れ、世界のワインジャーナリストたちからも注目を集める造り手でしたが、試飲会などでワインを沢山飲んだ後は、激しい頭痛に悩まされていたそうです。あるときバローロ村の生産者からのすすめもあり、ブドウの無農薬栽培を試みることに。勇気がいりましたが、頭痛はしなくなったし、人件費などのコストは思ったほど増えなかったそうです。
「だってさ、ブドウの足腰が強くなって病気にかかりにくくなって、仕事の量は減ったんだ」
たっぷりした重量感のあるブドウの房から実を一個つまみ、口に含んでそう言い切る彼。さらに、彼の最も大切な畑で収穫したブドウで、こんなことをやろうと思いつきました。それは、昔ながらに足でブドウを踏んで果汁を得ること。人為的な重さの加減でブドウの実は適度に潰され、さらには枝に含まれる有効成分が果汁に加えられ、自然の消毒作用も生むのだと言います。そして何よりも、大好きな仲間とその年の収穫を祝う、最も楽しいやり方じゃないか、と。

丘が変われば土も違う。その違いを人が繋いで地域文化に変えた

丘が変われば土も違う。その違いを人が繋いで地域文化に変えた

楽しいブドウの収穫祭りを終えた仲間たちは、車を一列縦隊で走らせ、昼食会場に向かいます。当然、ランゲの郷土料理である上品なパスタのタヤリンやラビオリや、子牛肉をバローロ・ワインでじっくり煮込んだものや、コクの深いチーズを思い描いて、喜色満面の仲間たち!
と、先頭を走っていたワイナリーの青年は、行き過ぎていった対向車が目に入ってブレーキを踏む。その日、彼のところにやって来るはずだったバローロ村の先輩生産者でした。きっと自分のカンティーナの収穫作業のために時間に間に合わず、今、ブドウ搾りを一目見んと車を走らせてきたのだとすぐにわかりました。
「俺は、あの人から自然派ワインの在り方を学んだんだ。ワイン造りでは僕の父親みたいな人だ。ごめんよ、悪いけど、先に行っててくれ。彼を迎えに行ってくる」
若者はUターンして「父」を追いかけます。「父」と呼ばれたその人は、バローロ村で小さなカンティーナを営み、イタリアワイン界の重鎮として世界中のワイン関係者から尊敬を集める故ジュゼッペ・リナルディ、その人でした。
こんな素敵な生産者同士の横の繋がりエピソードが、ランゲの果てしないブドウ畑のあっちこっちに生み落とされ、むくむくと育っています。
イタリアの全国紙は、世界遺産登録の吉報を見開きページでこのように伝えています。“このランゲを含む地域が世界遺産に指定されたのは単に景観の美しさからではない。それならトスカーナも、フランスにも同じくらい美しいところはある。だが、この地域はワインをとりまく人々の生んだ文化や営みを含め、他にはない醍醐味を備わっており、その価値が認められて世界遺産になったのだ”
ところで、ああ、お腹がすきました。さあ、グラスを高らかに! 乾杯!

岩崎 幹子

飾らない人たちこそ本当に素晴らしいものや味をその指先から生み出していく。見ているだけでワクワクするし、元気が出る。イタリアならではの人という宝を追い続けて20年。日本の皆さんと一緒に彼らを見つめ、作ったものに触れ、そして味わってもらいたい。そんな思いで楽しく水先案内人を務められたら思います。

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