ハムの王様「クラテッロ」のルーツを探る

ハムの王様「クラテッロ」のルーツを探る

パルマは、北イタリアのミラノとボローニャの間に位置する。広大なパダーナ平原を通るポー川の右岸は、バッサ・パルメンセと呼ばれるパルマの北部地域。そこで、ハムの王様「クラテッロ」は生まれた。リグリア海の海風を受けて作られるプロシュット・ディ・パルマ(パルマの生ハム)で知られる南部パルマからは、約60kmの距離がある。ユネスコの世界遺産に食の町と指定されるパルマは、パルミジャーノ・レッジャーノチーズ、プロシュット・ディ・パルマ、そしてクラテッロ・ディ・ジベッロの産地として知られている。すべて、ヨーロッパのDOP(原産地保護保証)に指定されている食品だ。その中でも最も希少で高価なクラテッロは、「ハムの王様」と呼ばれている。豚の後ろ足のお尻の部分の肉のみを膀胱の皮に詰めて、熟成させたハムだ。簡単に言ってしまえばそれだけのものだが、湿気の高いバッサ・パルメンセで「生ハム」を作るのは簡単ではない。そうしてできあがった熟成されたハムの芳香な香りは、唯一のものだ。

最高級生ハム「クラテッロ」

最高級生ハム「クラテッロ」

秋になって霧が出始めると、豚をと畜し、ハム、サラミ作りが始まる。湿気の高いこの地方では、他の地方で作っているように後ろ足を塩漬けして、そのまま乾燥させる方法では、ハムはできない。そこで後ろ足のお尻の部分だけを切り抜き、塩漬けする方法が行われた。豚の中でもかなり大きめのものが使われ、お尻の部分だけでも8kgはある。塩、コショウ、白ワインを混ぜ、職人の手で一つ一つ塩に漬けられる。さらにそれを膀胱の皮に入れ、職人の手で針を使い、タコ糸で縛っていく。それを上階にある家の中で一番湿気の低い部屋で半年近くゆっくりと乾燥させ、その後、地下の貯蔵庫で熟成させる。他の地域の生ハムと違い、湿度を利用しながらの製造法は、バッサ・パルメンセの気候を利用したものである。12カ月経ってクラテッロとなるが、そのままスライスして食べることはできない。膀胱の皮が肉に張り付いているため、それを流水またはワインに漬けて、ふやけたところで皮を完全に取り除き、ワインで濡らした布で巻く。スライスすると、熟成したハムの芳香な香りと、カンティーナ(熟成室)の香りが漂う。希少なハムであるだけに高価で、プロシュット・ディ・パルマ(パルマの生ハム)の約2倍の値段だ。地元でも普段にいただくことは少ない。

アンティーカ・コルテ・パッラヴィチーナ

アンティーカ・コルテ・パッラヴィチーナ

アンティーカ・コルテ・パッラヴィチーナは、1300年代にクレモナからピイアチェンツァ、パルマのポー川流域を統治していたパッラヴィチーノ家の城であった。1990年、クラテッロの生産者であり、レストランオーナーのスピガローリ氏が購入。それを20年かけて修復した。そこにホテルとレストラン「ANTICA CORTE PALLAVICINA(アンティーカ・コルテ・パッラヴィチーナ)」、そしてクラテッロの博物館が設置された。ドゥエ・トッリ(2本の塔)とも呼ばれる城の入り口には、スピガローリ氏がレストランで使用する野菜が植えられている。静けさの中、自然の風が木の葉を揺らす音や鳥の歌が聞こえ、時代をスリップしたような感覚におちいる。

クラテッロ博物館

クラテッロ博物館

イヤフォンで案内のガイドを聞きながら、博物館内に入っていく。博物館というよりは土壁の昔の納屋という感じだ。この地方の歴史、その当時の人々にとって、豚がいかに重要なものであったかが語られる。人々は、夏は農家として、冬はノルチーノ(方言ではマレザンと呼ばれると畜、豚を解体する職人)として働いていた。戦後ノルチーノという仕事がどんどん減っていき、またクラテッロを生産する人たちも少なくなっていたところに、スピガローリ氏が、フランス、イギリス、ロシアなど、海外にクラテッロの名を知らしめて現在にいたっている。
1951年にはポー川が氾濫して、この流域は浸水した。泥のついたままのボトルや椅子、たんすなどの家具も展示されている。指示通りに進んでいくと、最後にカンティーナにたどりつく。カンティーナとは、クラテッロの貯蔵庫のことで、1320年に公爵がクラテッロやハム、サラミの熟成庫として作らせたという。薄暗い蔵の中。左右と頭の上まで、クラテッロに囲まれて、クラテッロの熟成した脂の染み込んだテラコッタの上を歩く。奥の方には、イギリスのチャールズ皇太子のためのクラテッロや、日本向けのクラテッロも眠っていた。博物館を出ると、「オステリア・デル・クラテッロ」にてクラテッロの試食もできる。またミシュラン星付きのレストラン「アンティーカ・コルテ・パッラヴィチーナ」で本格的にクラテッロメインの食事をすることも可能だ。

クラテッロ博物館(MUSEO DI CULATELLO E DEL MASALEN)
住所 Strada Del Palazzo Due Torri 3, Polesine Parmense(PR)
TEL0524 936 539
営業時間2月1日〜12月30日火曜〜日曜10:00〜18:00(入場は17:30まで) ※イベントで休業となることもあるため、電話で確認の事
休日月曜(平日の場合のみ)、1月

西村 明美

初めて食べたプロシュット・ディ・パルマとパルミジャーノ・レッジャーノチーズに魅される。2003年には好きだったワインを勉強し、AISイタリアソムリエ協会のソムリエの資格を取る。その後、サルメリア研修をし、パルマの食を勉強。各種コーディネート、通訳、翻訳など活動中。

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