ジェノヴァから日帰り可!渓谷沿いの小さな村カンポ・リグレで再注目される銀線細工と職人の手仕事

ジェノヴァから日帰り可!渓谷沿いの小さな村カンポ・リグレで再注目される銀線細工と職人の手仕事

ジェノヴァから日帰りで訪問できる田舎町をお探しのかた必見「イタリアの最も美しい村」協会に加盟するカンポ・リグレ。人口約3千人の小さな村で紀元後3世紀頃から続く、長い歴史のある村。森と川に囲まれ自然豊かなこの村には、家族代々受け継がれる「フィリグラーナ」という美しい伝統工芸がある。伝統を受け継ぐ職人を訪れ、工房で仕事の様子を見せてもらった。

カンポ・リグレがフィリグラーナの生産地として有名になるまで

カンポ・リグレがフィリグラーナの生産地として有名になるまで

フィリグラーナ(フィリは線、グラーナは粒の意)とは、金や銀の細い線を加工、細工をした装飾品のこと。中東地域で約4000年前に生まれた技術と言われており、地中海沿岸の国々に広まるがローマ帝国の廃退とともに、ヨーロッパでは一度忘れられてしまう。数世紀後、海洋共和国の貿易が活発になり、中東の国々からジェノヴァ共和国へフィリグラーナの取引が行われるようになった。ジェノヴァの貴族たちに大変好まれ、町の人達はこの銀線細工の技術を習得し、沢山の職人が生まれた。しかしジェノヴァでマラリア熱が流行し、疫病から逃れるため1884年に一人のフィリグラーナの職人はカンポ・リグレへ住居と工房を移転。職人の仲間達をこの土地に呼び、こうしてカンポ・リグレはフィリグラーナの町として有名になった。全盛期には33の工房、約200人の職人がいた。現在は11人に減少してしまった職人のうちの一人であるダヴィデさんに話を聞くことができた。

親から子へと家族に代々伝わる職人技と道具

親から子へと家族に代々伝わる職人技と道具

フィリグラーナ職人になるための学校などはなく、技は代々家族によって継承されてきたそう。今回取材に協力していただいたダヴィデさんは母から学び、彼女もまた母から学んだのだそう。その昔工房が大きかった頃は、効率よく作業するため家族内で役割分担し、一人が一つの工程を専門に作業が行われていたが、現在はダヴィデさん一人で全ての工程を行なっている。つい最近まで母と二人で切り盛りしていたが、年老いた母は引退し、現在は一人で店を切り盛りしている。「作業のスピードは少し遅くなったけれど自分のペースでやっているよ」と笑顔で話してくれた。作業で使う沢山の道具は、どれも年季の入った古いものばかり。家族代々受け継がれてきたものがほとんどで、引退して店を閉じることになった職人から譲り受けたものや、自分で手作りしたものも使用しているという。

企業秘密?!代々渡り受け継がれるセピア色の設計図

企業秘密?!代々渡り受け継がれるセピア色の設計図

親切なダヴィデさんに古いデザイン画の描かれた紙や手帳を見せてもらった。彼の祖母や母が使っていたものだ。花や動物、聖母などのデザイン画の横には細かい数字が記されている。これが設計図となって現物を作っていく。一辺が均等の間隔にギザギザした三角定規のような金属製の道具を使い、紙に記されている数字の通りに銀線の長さを計り、折り曲げて大枠となるベースを作る。その内側にさらに細い銀線を加工した数種類の異なる模様のパーツを組み合わせ、繊細な柄を作り出す。このパーツが小さな穴にそれぞれピッタリはめ込まれていく工程は、とても印象的だ。長年の経験で狂いのない細かい作業ができるようになったそうだ。その後ホウ砂と銀を混ぜ火にかけて固め、器具を使い凹凸をつけて立体的にする。平らだったパーツがまるで手品ショーのように、あっという間に一輪の花に変身した。

思い出深い作品と、これからも目が離せない小さな村カンポ・リグレ

店内にはアクセサリー、マドンナ像、ジェノバの灯台などクラシカルな作品が並ぶ。ダヴィデさんに特に印象的だった注文についてたずねてみると、先日納品したばかりという鉄道の作品の写真を見せてくれた。「これをオーダーしてくれたのは今年で結婚50周年を迎える老夫婦なんだ。二人は昔、偶然乗り合わせた電車の中で知り合い、恋に落ちた。それで当時の電車を思い出すフィリグラーナを作ってほしいと頼まれたんだ」。ダヴィデさんはこのような依頼を受けることがとてもうれしく、幸せだと話してくれた。ちょうど取材をしている最中にも「自転車が大好きな友達の退職記念に、自転車の形のフィリグラーナを作ってほしい」と、中年男性二人が店を訪ねてきた。大切な人へ、思いの込められた世界にたった一つしかないプレゼントをするイタリアの人々。とても素敵だ。ダヴィデさんは来年2020年に予定されている村のイベントで、大きな作品を作る予定。フィリグラーナの店を継ぐ若者は減っているが、「フィリグラーナのことを沢山の人に知ってもらえるチャンスになったら、うれしい」と語った。少し足をのばして、旅の思い出の品を探しにカンポ・リグレを訪れてみてはいかがでしょうか。
フィリグランアート(FILIGRANART)
住所 via A.S.Rossi, 15 Campo Ligure(GE)
TEL010 920 561
営業時間月〜土曜9:00~12:00, 15:00〜19:00、日曜10:30〜12:00(閉店の場合もあり)
休日日曜午後、イタリアの祭日 ※ほかの町イベントでお店を閉める場合あり

大西 奈々

2011年よりジェノヴァ在住。日本で芸術大学修士課程修了後渡伊、音楽院を卒業。演奏会でリグーリア州各地を周り、小さな街の独特の文化や景色に魅せられる。趣味は休日に骨董市をまわったりジェノヴァ近郊の街を探検する事。バリエーション豊かな伝統工芸品やリグーリア産の食材の産地、料理の情報をお届けいたします。

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