港町ラパッロの女性たちと手編みレースに秘められた物語を紐解く!

港町ラパッロの女性たちと手編みレースに秘められた物語を紐解く!

ポルトフィーノ近くの港町、ラパッロ。観光の後、その土地の文化にも触れてみたい! という方に、手編みレース、merletto a tombolo(メルレット・ア・トンボロ)をご紹介。メルレットはレース、トンボロは作業台のこと。ヨーロッパで流行し、イタリアではカントゥやヴェネツィアが産地として現在も有名だが、ラパッロのレース編みは稀少なものになってしまった。現地の職人の話から見えてくる、信仰深いの女性たちとレース編みの深い絆に迫る……!

手編みレースに教会が投資?!

手編みレースに教会が投資?!

Michela Cucicea著 「Il Merletto Liturgico Nel Golfo del Tigullio」より:浜辺でレース編みをする当時の女性たち
服装に厳しいルールがあった16世紀のヨーロッパ。人々は規則を守りながら、裾や袖、襟にレースを使うことで個性を出しお洒落を楽しんでいた。当時の貴族の肖像画を見ればレースがふんだんに使われている事にお気づきになるはず。また、困った時にお金に変えられるように……と嫁入り道具にレースを贈っていたほど当時とても高価なものだった。贅沢の象徴でもあったレースはフランス革命により下火になるが、信仰心の高いヴィクトリア女王がレースで肌を隠すファッションを好んだため、再び大流行する。需要の高いレースは、ラパッロを含むティグリオ湾に来る貿易船に買い取られ、ヨーロッパやアメリカ各地へ運ばれた。それまでばらばらだったメルレッタイエ(レース職人の女性たち)は、より効率よく仕事が出来るよう団結する。モンタッレグロ教会の神父の提案によりレース編み団体が設立され、教会では初心者がレース編みを開始することをサポートしてくれた。用具一式を出費し、団体内の上手な者が初心者に技術を伝授した。一人前になると売り上げの15〜20%が寄付という形で教会に納められた。会計士に帳簿、信頼できる固定の買い手が付き、女性たちは安心して働くことができたため、あっという間に街の一大産業となったのだ。
若手職人ミケーラさんに聞く、ラパッロ産レース編みの魅力。

若手職人ミケーラさんに聞く、ラパッロ産レース編みの魅力。

ミケーラさんはメルレット・ア・トンボロ(以下トンボロ)のプロの職人で研究家。愛して止まないトンボロの歴史と技術を後世に継承するため協会を開設し、作品を作る傍ら執筆活動や後進の指導も力を入れている。トンボロに欠かせない道具がフゼッリと呼ばれる木製の糸巻きボビン。ラパッロのものは約10センチと小型で、これらを同時に数十〜数百本使用する。数千本が使われた作品も存在すると言うので驚きだ。「トンボロの作業は数学的なの。慣れてしまえば指が勝手に動くのよ」とミケーラさんは言う。数年前の作品展の際に、地元の方たちから先祖が使っていたフゼッリやデザイン画をたくさん寄付してもらい、大切に使用している。「この街の人たちの愛を受け継いだ」と語ってくれた。

ラパッロのレース編みの特徴は麻100%の糸を使う事、そして独特のデザインがあり、珊瑚、蜘蛛、聖マルティヌス、ガッタ(方言で蛾の幼虫のこと)など、柄を見ればラパッロ産だと分かる。また、余白を上手く利用して模様が浮き立ち遠目に分かりやすいことも特徴だ。

山頂の聖所記念堂に大切に保管される美しすぎるロシェトゥム

山頂の聖所記念堂に大切に保管される美しすぎるロシェトゥム

ラパッロの女性たちの多くが漁師や船乗りの妻。夫や息子たちが命を落とさず帰ってくるよう願いを込めてレース編みをしていたという。レースの収入は男性の稼ぎに比べると少ないものだが生活の足しになり、家事や子育ての合間にできて効率がよかった。煤の舞う屋内での作業はレースが汚れるため、日中は太陽の下、路上や浜辺で仲間たちとグループになって作業することで女性たちはより社交的になった。毎年一枚ロシェトゥム(司教たちが儀式で着用する白衣)が団体の親元となるモンタッレグロの聖所記念堂へ寄付され、16世紀以降の古い白衣が今も大切に保管されている。今回特別に見せて頂いたが、古い作品ほど芸術性が高くてきめが細かく、これが人間の手から作られたものとは……と圧倒させられた。恐らく3000本以上のフゼッリが使用されており、一年かけて丹精込めて編まれたものだそうだ。当時の女性たちがこのような気の遠くなるような作業を継続できたのは何故だろう。「神への信仰と献身的な愛が彼女たちの背中を押していたのでしょう」とミケーラさんは言う。
最後の一軒となった老舗レース屋の店内はまるで美術館!

最後の一軒となった老舗レース屋の店内はまるで美術館!

一昔前まではラパッロに何軒もあったレース専門店は、現在たった一軒のみになってしまった。旧市街地にあるEmilio Gandolfiは1920年開業の老舗。現在四代目が店を切り盛りしている。店内は当時のままで、まるでタイムスリップしたよう! 若くて気さくな店主が唐突に見せてくれたのは、なんと200年前のレース。さらに女性が教会へ行く用の黒いヴェールや、劇場へ行く際の肩掛けなど、興味深いものが今も展示販売されていて、まるで美術館そのもの。もちろん、旅行の思い出に丁度良い小さなサイズも販売されていて、可愛い包装をしてくれるのも嬉しい。大きいものや複雑なデザインの作品は、作れる作家殆どいないため、最後の一点物だという。運の良い時は店主のお母様が店内でトンボロの作業をする様子が見れますよ!
トンボロのレース編み エミリオ・ガンドルフィ(Pizzi al tombolo Emilio Gandolfi)
住所Piazza Cavour,1,16035 Rapallo GE
営業時間月曜16:00〜19:30、火曜〜土曜 9:30〜12:30、16:00〜19:30(日曜定休日)
電話+39 018550234 50234
HPhttps://www.gandolfipizzi.it/

大西 奈々

2011年よりジェノヴァ在住。日本で芸術大学修士課程修了後渡伊、音楽院を卒業。演奏会でリグーリア州各地を周り、小さな街の独特の文化や景色に魅せられる。趣味は休日に骨董市をまわったりジェノヴァ近郊の街を探検する事。バリエーション豊かな伝統工芸品やリグーリア産の食材の産地、料理の情報をお届けいたします。

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