ロンバルディア州モルターラの男がガチョウにかける気概!

ロンバルディア州モルターラの男がガチョウにかける気概!

太古からイタリア半島で最も長い水の流れ『ポー』にゆっくり愛撫されてきたパダーナ平原。その一帯に果てしなく広がる水田は、夏の間ゆったりと水を湛え、晩秋になると巨人の吐く深いため息のように濃く、憂鬱な霧で一面を覆いつくします。町並みを走り抜けると霧の世界、小さな町並み、また霧世界、ミラノから南東に50キロほど車をどんどん走らせるうちに、可愛いモルターラ(Mortara)の町が見えてきました。『クックックワッ!』『むむ?霧に霞んでみえるあのツルツル頭は……ガチョウたち!?』

牛や、豚だけじゃない。農家のキャスティングにはガチョウも必須

牛や、豚だけじゃない。農家のキャスティングにはガチョウも必須

イタリア人が昔ながらの農家つまりファットリア(Fattoria)と聞いて、思い浮かべる家畜といえば、乳用の牛、肉用の豚、鶏から卵を、農耕には虚勢牛、荷物の運搬にロバっといったところ。いえいえ、ガチョウを忘れちゃいけません! いつかは食卓に供されるのですが、卵も鶏にまして大振りで味わいも格別、でも賢くて警戒心が強いのでご用心。番犬がごとく、敵と認識するとそのかたーい嘴で貴方の足首や、ふくらはぎに向かって勇猛果敢にアタックして来ますよ。さて、ここモルターラ近郊のそんな農家の一つで育ったジョアッキーノ・パレストロ(Gioacchino Palestro)さん。子供の頃は、そんなガチョウたちを母親に言いつけられ杖を使って、放牧するのが毎日の仕事だったそうです。そのうちにどんどんこの白い大きな鳥が好きになり、実家は肉屋も営んでいたから、地域伝統のガチョウ料理にも心得があった。いつしか『自分の人生はガチョウなしには考えられない』という思いに至るようになりました。

フォアグラと呼ばわるなかれ!?

フォアグラと呼ばわるなかれ!?

厚めの腸にガチョウ肉を粗めに挽いて詰めたモルターラ特産『サラメ・ド・オカ(Salame d’Oca)』。特にジョアッキーノさんが営むガチョウ肉の専門店、その名も『コルテ・ド・オカ(Corte d’Oca)』のものは、『ガチョウの宮廷』と銘打つにふさわしく、しっかりした肉の練り具合に、ほど良い塩気、口の中でコリコリした食感を楽しむうちに、もう一切れ、あと一枚と胃をくすぐられてしまいます。そのほかにも、胸肉のスモーク、テリーヌ、小さめのサラミ『カッチャトリーニ』、内臓のラード漬け、モルタデッラ、ガランティーヌ、モモ肉のスモーク、皮をコリコリに焼いたガチョウ版チッチョリなど果てしない。ガチョウ肉からここまでバラエティに富んだ加工品を生み出せるお店は他にはあまり例がないでしょう。もちろん精肉としてもあらゆる部位を提供しています。なら、ガチョウといえば自ずと知れた『フォアグラ』も?
「お前さん、なんてった!? オレはフォアグラはやらん!」
「あー、ないの?」
ジョアッキーノさん、こちらを見据える視線はちょっと怖い……
「強制給餌はやらん! じゃから『フォアグラ』と呼ぶな。ガチョウの肝臓(Fegato d’oca)と言え。」
(じゃ、あるんだ、しかも平飼いで健康に育ったより優れた……フォアグラが。)
「フランスで行われているような従来型の給餌方法(ガヴァージュ)は、出荷前に12から15日間、脂肪分の高い餌を強制的に食べさせて肝臓を急激に太らせるだろう。それじゃ体を壊しちまう。そんなガチョウの肝臓のどこがうまいもんか。いいか、ガチョウはもともと貪欲な鳥で、地面にトウモロコシでもなんでも置いておいたらあっという間に食っちまう。こっちから強制して食わす必要なんかない。うちじゃあ出荷前に特に栄養価の高い飼料を平飼いで与えて好きに食わしとく。出荷には45日かかるが、健康に飼っとるから味が違うんじゃ。わかったか!?」

女性3人かガチョウが3羽集ればメルカートが立つ

女性3人かガチョウが3羽集ればメルカートが立つ

「ガチョウに捨てるとこなんざ無い! 脂肪も沸点が高いから、揚げ油につかったら最高だし、10回以上揚げ続けても疲れ知らずでキレイなまんま! とれたてのガチョウの油は塗り薬として使えば咳も翌朝には嘘みたいに治っとる。言っとくが、ガチョウを飼い始めたのはフランス人じゃない、古代ローマ人だ、彼らはイチジクを食べさせてガチョウを太らせた。このオレがその飼育方法も復活させた。自分の研究ではさらにローマ人たちはエジプト人からガチョウの利点を学んだ。それだけ古くから人間とガチョウには関わりがあったわけだ。イタリアじゃ頭の悪い女性のことをガチョウ(Oca)って呼ぶだろう? ありゃとんでもない間違いで、本当の意味を取り違えたんだな。お前さんも聞いたことがあるだろう?『女性が3人かガチョウが3羽集ればメルカートが立つ。』って。女もガチョウもお喋りで賑やかだからだ。
ガチョウは女性に負けず劣らずキレイ好きな動物だ。しょっちゅう羽根についた汚れをとって身繕いしちゃあ、自分の美しさを見せつける。ヴァニティーな生き物だ。」
「オレには子供は3人いる。が、全員が自分の道を選んで別の仕事をやってる。オレは好きにしろと言ってやったさ。オレの体が続くうちゃあ、ガチョウ一本でやってけるからってね。マヌエレって頼みになる若い衆もいるし、不満なざぁこれぽっちもない。オレのガチョウで、地域のみんなをもっともっと喜ばしてやる!」

La Corte dell’Oca
住所Via Francesco I Sforza, 27 27036 Mortara (PV)
営業時間8:30-12:30/14:30-19:00
定休日日曜日
電話+39 0384 98397
HPhttp://www.cortedelloca.com/lacorte.html

岩崎 幹子

飾らない人たちこそ本当に素晴らしいものや味をその指先から生み出していく。見ているだけでワクワクするし、元気が出る。イタリアならではの人という宝を追い続けて20年。日本の皆さんと一緒に彼らを見つめ、作ったものに触れ、そして味わってもらいたい。そんな思いで楽しく水先案内人を務められたら思います。

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