パティシエが作るイタリア最高のパネットーネはバジリカータにあり

パティシエが作るイタリア最高のパネットーネはバジリカータにあり

先日のANSA通信によると、イタリア人家族の48%が、昔ながらのクリスマス菓子を家庭で作っています。一口にクリスマス菓子といっても、村の数だけレシピがあります。その誇り高き「わが町のクリスマス菓子」とは共存しつつ、イタリア全土で愛されているのがパネットーネです。ご存じミラノ生まれのクリスマスの発酵菓子。ということで、パネットーネの巨匠と言えば、北イタリア勢の独壇場です。が、2014年以降、目ぼしい「イタリア最高のパネットーネ賞」の19タイトルで1位を独占するパネットーネの作り手が、バジリカータ州の耳慣れない村にいるんです。

なぜミラノではなくアチェレンツァ?!(ってどこ?)イタリア最高のパネットーネの秘密とは?

なぜミラノではなくアチェレンツァ?!(ってどこ?)イタリア最高のパネットーネの秘密とは?

「イタリアの最も美しい里」に数えられるアチェレンツァ村とヴィンチェンツォ・ティーリさん©Tiri
過去5年間、19タイトルで単独1位。グルメ誌やTV・ラジオ番組はこぞって、イタリア最高のパネットーネの「何か途方もない秘密」を探り出そうと特集を組みます。その度、穏やかに繰り返されるヴィンチェンツォさんの答えは「伝統製法との違いは、3回のこねと3度の長期発酵です。それがより柔らかく、よりアロマティックで消化の良いパネットーネになるんです。」あまりに普通過ぎて、かえってすごさが強調されます。

仕事柄、物づくりを間近で見る機会はある方だと思いますが、いい作り手ほど、素材に対して(人に対しても)謙虚な人が多い。

「アチェレンツァでは全てがゆっくりと過ぎていきます。私たちのパネットーネも生まれるまで3日がかりです。より良いパネットーネを生み出すために、その心づもりや鍛練のための時間をアチェレンツァが与えてくれるんです。」とヴィンチェンツォさん。

菓子の本場パリ、トリノなど方々で8年の修行の後、「イタリアの最も美しい里」に数えられる故郷で、パネットーネに取り組んで今年で10年目。もし秘密があるとするなら、ゆっくりと過ぎていくアチェレンツァ時間で、パネットーネに寄り添うヴィンチェンツォさんのひたむきさ、でしょうか。

原材料の生産者に会いにどこまでも。だから原材料の一つひとつに話したくなるストーリーがありました。

原材料の生産者に会いにどこまでも。だから原材料の一つひとつに話したくなるストーリーがありました。

自家酵母©Tiri
例えば、長期発酵の要となる自家酵母は毎朝一日も休むことなく水に漬けて種継ぎされます。アチェレンツァの工房では5種類の自家酵母を使い分け、パネットーネの他、パンドーロ、デニッシュ、ババ、アチェレンツァの郷土菓子などありとあらゆる発酵菓子&発酵パンを作っています。一番古い酵母は、土地の主婦が自家製パンに使っていたものを、ティーリの初代(おじいさま)が譲り受けた、なんと110年ものです。
パネットーネ生地、発酵中© Tiri
こんなに美しい発酵を見たことがありますか?

その他、パネットーネに欠かせないオレンジピール。スタッチアというオレンジは州の在来作物ですが、規格はてんでばらばらだし(一玉300g~1kg)、果汁には苦みもあって、安値で売れなければ捨てるしかありませんでした。その薄幸のオレンジの皮で作る自家製オレンジピールは、今ではティーリ謹製パネットーネの「顔」です。
さらには、使っているチョコレートのカカオ豆まで検分しにヴェトナムまで。行きます? 普通……

イタリア人にとってパネットーネは、(たぶん)「プルーストのプチット・マドレーヌ」である

イタリア人にとってパネットーネは、(たぶん)「プルーストのプチット・マドレーヌ」である

ヴィンチェンツォさん@ティーリ・ベーカリー&カフェ
2013年クリスマスのこと。伊グルメメディアが、かの『失われた時を求めて』の「マドレーヌ」を引き合いに「ほとんど究極の完成度」とティーリのパネットーネを絶賛。「その時はとても嬉しかった」と、ヴィンチェンツォさんが照れながら話してくれました。 なるほど、マドレーヌもフランスの発酵菓子でした。現代イタリア人にとって、パネットーネは子ども時代のクリスマスの、あのなんともいえない多幸感と直結しているのかもしれません。 さてさてパネットーネ好きに耳寄りな情報です。2018年、ポテンツァ市にティーリ・カフェがオープン。地元でもなかなか味わえなかったヴィンチェンツォさんのパネットーネが1年中、ワンポーションから味わえるようになりました。随分しゃれた店内には、アチェレンツァの工房で5種類の酵母を使い分けて作る、世にも美しい発酵菓子&パンのあれこれがずらり。バジリカータの新名所のようになりつつある要チェックなスポットです。
TIRI 1957
本店住所Via Antonio Gramsci, 2/4 85011 Acerenza(バジリカータ州ポテンツァ県)
電話+39 0971 749182
HPhttps://www.tiri1957.it/
Tiri Bakery & Caffè
住所Via del Gallitello, 255–85100 Potenza (バジリカータ州ポテンツァ市)
営業時間月~金07:00~21:00/土07:00~22:00/日08:00~13:00
電話+39 0971 309591
HPhttps://www.facebook.com/TiriBakeryAndCaffe/

白旗 寛子

1974年生まれ。2003年からマテーラ在住。イタリア人の胸を借り、バジリカータ州広域にて、取材および番組コーディネーター、通訳・翻訳、日本語・伊語で執筆ほか。

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