マルケ州の大自然の中で生きる2000頭の羊とエミリオのチーズに会いに行く!

マルケ州の大自然の中で生きる2000頭の羊とエミリオのチーズに会いに行く!

カランコロン、カランコロン、遠くの丘から聞こえてくる羊の首に着けられた鐘の音。アペニン山脈沿いの丘陵地帯でもひときわ丘が描く波間の雄々しく広大なモンテフェルトロ地帯は、昔から羊飼いが渡り歩き、ペコリーノチーズが生産される地域でした。良質な牧草と自然のハーブが生える丘に放牧された羊たちはそのお乳にも、青草の香りをたっぷりと移し、自然の生命力はそのままチーズを発酵させる力となって表れ、多くのシェフをうならせる素晴らしい芳香のペコリーノチーズが生まれています。そんなチーズを作っている代表的な工房、カウ・エ・スパーダ(Cau e Spada)の新しい挑戦に迫ります。

3代目エミリオの新しい挑戦

3代目エミリオの新しい挑戦

『イタリア好き』Vol.33マルケ特集にて、左がエミリオさん。
『イタリア好き』Vol.33マルケ特集号の表紙を飾った生産者エミリオ家族は、1970年頃、祖父の代に遠く離れたサルデーニャから200頭もの羊を引き連れ、海を渡り移民としてここモンテフェルトロ領のサッソコルバーロにやってきたカウ家とスパーダ家からはじまります。この土地の手付かずの自然に惚れ込み、根を下ろした彼らは、ペコリーノ作りをスタートさせた。

幼い頃から祖父や父親がチーズ作りに打ち込む姿を見て育ったエミリオは、兄弟姉妹の中でもチーズ職人の血を一番強く引いた少年でした。幼い頃、工房で羊のお乳を飲んだり、チーズで遊んだり……育った環境そのものがチーズの天国。彼が才能を発揮し始めるのにそう時間はかかりませんでしたが、山奥でチーズを黙々と作る生活に疑問を持ち始めたのは20歳を過ぎてから。”自分の父親のようにただおいしいチーズを作っているだけでいいのか? 食材としての自分たちの作るチーズの可能性は広げられないものか”と。そして、世の中でおいしいと言われている味覚を自分なりに咀嚼するため、父親の目を盗み夜にこっそり家を抜け出し、いわゆる星付きレストランのシェフのお料理を食べ歩く、という冒険を始めます。若い彼の舌に新鮮に響く色々な味覚。自分の料理に使いたい、とシェフに思ってもらえるようなチーズを作りたい! という強い願望が生まれるようになったエミリオは、この時期から工房内で今までの伝統的なペコリーノチーズとは違う実験的なチーズを作り始めます。

日の目を見たエミリオの情熱

日の目を見たエミリオの情熱

目標の定まったエミリオがぶち当たった壁は、父親の猛反対でした。伝統的なものの考え方の彼は、長年築き上げてきたペコリーノ作りや、娘息子ら5人にチーズ作りという安定した職を与えたことに誇りを持っていたため、なぜエミリオが危ない橋を渡ってまで売れるか売れないかも分からない実験的なチーズ作りにこだわるのかが分からず、衝突が絶えませんでした。それでもエミリオは少しずつ信念に従い自分の目指すチーズ作りを試行錯誤し続け、徹底した羊乳の温度調整、特徴あるカビ付け、本では学べない実験的な熟成を通して納得のいくチーズが熟成庫から生まれはじめます。

洞穴熟成のフォッサチーズ、牧草の香りが濃厚に漂ってくるリコッタ、羊乳のパルミジャーノとも言えるマニフィコ。これらのチーズは少しずつエミリオが目指した舞台へと登場し、グルメの世界で彼のチーズが認められるようになりました。現在、世界一のレストランと言われるオステリア・フランチェスカーナや、マルケ州セニガリアの3つ星レストラン、ウリアッシなどでカウ・エ・スパーダのチーズは素晴らしいお料理に使われ、貢献しています。
土と草と羊とともに

土と草と羊とともに

巡る季節の中で繰り返される2000頭の羊の営み。勾配が険しく栽培される作物が限られるこの地域は、粘土質で羊が食む草にはいい条件が整っています。5月の若草は柔らかく香り高く、甘く熟成の進みやすい乳を生み、7月のハーブは長い熟成に耐える骨格のある乳を生むのだとエミリオは語ってくれました。季節の乳の違いを生かし、それぞれの良さを引き出すチーズを考えるのは最高に楽しい、と笑うエミリオの後ろには羊追いの犬が何匹も丘と丘の間を行き来し、土地の自然と動物、人間がとてもやわらかいハーモニーで調和しているのが空気の中に感じられます。

工房内は乳と菌と蒸気とで官能的とも言える空気が充満していて、ここで毎日作業する人たちは身も心も健康であるのだろうな、と思えてなりません。 そんなすべてが詰まったチーズに会いに、皆さんもいらっしゃいませんか?
カウ・エ・スパーダ工房
住所Via Ca' Becchetto, 61028 Sassocorvaro(PU)
営業時間月~土 9:00~13:00 16:00~19:00(訪問の際は事前に要確認)
電話+39 0722 769492
HPhttp://www.cauespada.it/

林 由紀子

1999年からイタリア在住、ファエンツア国立陶芸美術学校を経てアーティストBertozzi&Casoniのもとで修行、彼らとの仕事を通してイタリアの食とアートの繋がりを強く認識。移り住んだマルケの土着的な自然、工芸、食文化に関わる人々にインスピレーションを受けてマルケを紹介しようと製作の傍ら通訳アテンド活動を開始。マルケの郷土食などを紹介する文化アソシエーション”Mac Caroni"運営メンバー

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