冬の伝統野菜カルドゴッボのビールを飲み干す

冬の伝統野菜カルドゴッボのビールを飲み干す

ピエモンテ州でもアスティの土の力は無限。農業もワイン生産のみならず、穀類や野菜の栽培に肉牛飼育と多岐にわたります。中でもニッツァ・モンフェッラート地区はその縮図。農家では麦も野菜も上手に栽培し、肉牛を清潔に飼い、ワインがしっかり作れてしまう。特に冬のこの時期ともなると新鮮なカルド・ゴッボを求めて多くの料理人が農家へと車を走らせます。ところが、ここニッツァの町外れには、正にその真っ白な野菜が持つ風味をビールに写し取るべく奮闘している若者たちがいます。

凍てつく大地に鍬を入れる老人の背後で若者たちが挑んだもの

凍てつく大地に鍬を入れる老人の背後で若者たちが挑んだもの

イタリアの食通たちから『カルド・ゴッボの育ての親』と尊敬を集めた今は亡きボンジョヴァンニおじいちゃん。彼が畑を覆う雪を払い、凍りついた土の中から甘みの増したカルド・ゴッボを掘り起こす、その背の向こうに見える何の変哲もない倉庫に篭り、麦汁を絞る若者たちがいたなんて誰が想像できたでしょう? さらに彼らは、そのおじいちゃんが手にしていた自慢の伝統野菜『カルド・ゴッボ』の風味をドロドロした麦汁に封じ込めようと四苦八苦していたと知ったら……おじいちゃんは「この罰当たりめ!」と怒鳴ったか、目をクリクリさせて「ほお~ワシにも飲ませてみろ?」と若者の間に割り込んだか、今となっては知る由もないのが少し残念です。

このクラフトビール工房『ヌオヴォ・ビッリフィーチョ・ニチェーゼ(Nuovo Birrificio Nicese)』をカルロ・コロンバーラ(Carlo Colombara)とマヌエレ・バルロッコ(Menuele Barlocco)が立ち上げたのは2006年。カルロが醸造担当。出来たビールをマヌエレが売り歩く。
年間1000ヘクトリットル(750mlのビール瓶で13万本余り)を生産していますが、理想は地元での完全消費。たとえピエモンテ州内で発送には余り気乗りしない。このビールたちが生まれた場所で一番旨い間に飲んで欲しい。その信念から工房内にパブも作りました。工房は少しずつ成長し、今では社員数も8名に。

今年は不作のカルド・ゴッボ

今年は不作のカルド・ゴッボ

カルド・ゴッボ風味のビール『ダフネ(Dafne)』は、ホップを添加し煮沸する際に一緒にカルド・ゴッボを煎じた液も加えます。カルド・ゴッボの優しいタンニン分が、ホップの苦味をソフトに包み込み、独特の後味と心地良い苦味を生みます。このバランスを得るのに3年間試行錯誤を繰り返し、苦労の末ピエモンテならではのビールを完成させました。

カルド・ゴッボは日本の大根のように地表面が凍るほどの寒さを体感すると甘みが増し、食感もパリッとします。しかもカルド独特のほろ苦さはそのまま。ところが今年は暖冬で、クリスマスを過ぎても零下を記録したのはたった数回。だから出来がイマイチ。年が明け、冷え込みが続き、納得のいく質のものが手に入るようになり、製造開始。漸くこのビールの醍醐味を待ちわびるファンに喜んでもらえるようになりました。

「これもどう?」と勧められ、次に試したのが、地元ニッツァ産の赤ワイン『バルベーラ』と『フレイザ』のモストを加えた『カライデ(Calaide)』。軽やかなフルーツ味があって、華やかな印象ながら『僕はビールです』としっかり主張する。他国で生まれたアルコール飲料『ビール』に地元の特色を育もうとするカルロの手抜かりない作り込みに目を見張る逸品でした。 このほか、すっきり系ヴァイスからパンチの効いたエール、重厚なスタウトまで全17種類ものイタリアン・クラフトビールが楽しめます。

地産地消がモットー。イタリア国内で調達できないのはホップだけ

地産地消がモットー。イタリア国内で調達できないのはホップだけ

カライデに舌鼓を打っている間もカルロは話を続けます。
「創業2006年で、イタリアでは結構早い時期に生まれたクラフトビール工房ですが、うちの強みはサプライチェーンがほぼ完全に工房内で賄えていること。冬場だから気がつかないだろうけど、この工房の周囲の畑で僕らの手で麦を栽培し、それを原料にビールを作っています。工房内のパブでは、同じく自家栽培の麦をニッツァのパン屋に持って行き、ビール酵母で発酵させて焼いてもらったパンを使用しています。ビール粕はアルバ郊外の肥育農家に持っていって肉牛の餌として再利用。育った肉牛の肉を今度は僕たちが買い取り、同じくパブで提供する。ビールだけではなく、工房内のパブで用いる食材もほぼ地元産です。でもたった一つ、ホップに限っては今でもドイツ産を用いています。イタリア産でもダメでした。一度、自家栽培のホップで試みたのですが、ドイツ産のような泡立ちがなくアロマも中途半端で結局断念しました。でも、いつか自家栽培のホップでうまいビールを作ってみたいです。
えっ? ビール作りをしていない時ですか?……いつもほったらかしにしてる僕の奥さんと、のんびり……したいなあ!」

Nuovo Birrificio Nicese
住所Strada Bossola 29, 14049 Nizza Monferrato (AT)
営業時間木曜19:30-00:00 金・土曜19:30-1:00 日曜19:30-22:00
定休日月曜~水曜
電話+39 0141098036
HPhttp://www.nuovobirrificio.com/

岩崎 幹子

飾らない人たちこそ本当に素晴らしいものや味をその指先から生み出していく。見ているだけでワクワクするし、元気が出る。イタリアならではの人という宝を追い続けて20年。日本の皆さんと一緒に彼らを見つめ、作ったものに触れ、そして味わってもらいたい。そんな思いで楽しく水先案内人を務められたら思います。

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