一級の地元ラバーの手であるべき姿に再生した洞窟のホテル、コルテ・サン・ピエトロをおすすめする理由

一級の地元ラバーの手であるべき姿に再生した洞窟のホテル、コルテ・サン・ピエトロをおすすめする理由
©Piermario Ruggeri
近年、世界遺産のサッシ地区において、谷中の取り組みでも話題のアルベルゴ・ディフーゾ。旧市街の空き物件をつないで「拡張したホテル」として再生し、古い町並みを保全しつつ経済の循環も生む、イタリア生まれのユニークな構想です。すこぶるイタリアらしいのは、住民が実際に暮らす生きたコミュニティーがあるのが前提で、一番肝心なのはずばり「人」。住人と密に関わる体験にこそ価値があるとしています。サッシ地区には「ご近所と積極的に関わっていく町づくり」があったのです。
サッシ地区では、ホテルは図らずもアルベルゴ・ディフーソである。秘密は「ヴィチナート」

サッシ地区では、ホテルは図らずもアルベルゴ・ディフーソである。秘密は「ヴィチナート」

コルテ・サン・ピエトロのヴィチナート© Piermario Ruggeri
マテーラで「ヴィチナート」といえば、中庭(共有部分)を中心に、そのぐるりを洞窟の家々(私有部分)が囲むユニット全体のこと。江戸の長屋の洞窟版といったところでしょうか。「一つ岩」を共有するご近所同士、情も結束もある人付き合いが、暮らしの中心にありました。そんな血の通ったヒューマンスケールなユニット、ヴィチナートの集合体がサッシ地区なんです。
コルテ・サン・ピエトロの平面図。黄色部分が共有の中庭 ©Daniela Amoroso
ヒューマンスケールの何がすごいって、例えばホテルで顔を合わせたゲスト同士が、にっこり笑って言葉を交わすのに絶妙な距離なんですよね。遠すぎず近すぎずが、とにかく心地いい。現在は13の客室があるコルテ・サン・ピエトロも、2012年のスタート時は5室でした。
マテーラ一、勇敢な花嫁のお話

マテーラ一、勇敢な花嫁のお話

ジュニアスイート© Piermario Ruggeri
始まりは勇敢な花嫁マリーサさん。結婚を決めたフェルナンドさんと、迷うことなくサッシ地区で新居探しを始め、これはという物件を見つけます。時は「世界遺産」前の1990年。サッシ地区はただの「洞窟地区」だし、だいいち20年以上に渡る無人化で、近づくのもためらうぐらい荒廃していたハズ。「両家の一人残らず大反対。まわりもあの二人は正気じゃない……って」とからから笑うマリーサさん。そんな風潮も荒廃もものともせず、住み継ごうとした勇気と覚悟の結果は、言わずもがな。2005年頃、マリーサさんの家は、サッシ地区で最も美しい私邸の1つとされ、取材してため息をついたのを覚えています。そんなご夫妻が、自宅階下の眠れるヴィチナートを少しずつ購入し、アルベルゴ・ディフーソの理念で空き物件をつないで「拡張したホテル」として再生したい……と思い立ったのは17年後のことです。
サッシへの思い入れも、深い造形も人一倍のご夫婦の手で修復。工事中には驚きの発見も!

サッシへの思い入れも、深い造形も人一倍のご夫婦の手で修復。工事中には驚きの発見も!

朝食ルーム©Corte San Pietro
17世紀に遡るヴィチナートを前にして、マリーサさんご夫婦は、コンクリートなど近代の粗雑な上書きのレイヤーをこつこつと除去。5年がかりで、気持ちのいい現代のヴィチナートに再生しました。工事中、生活用の地下貯水槽が次々と見つかり、地下貯水槽だらけのサッシ地区でも稀有な8連結の貯水槽は、現代アートの鑑賞がてら実際に中に入ることもできます。
Alfredo Pirriのインスタレーション『IDRA(水または心を探求する場)』。ウユニ湖のような鏡映しが楽しめる©Corte San Pietro
そしてアルベルゴ・ディフーソの楽しみは? 地元ラバーであり、美食家でもあり、さらに顔が広いマリーサさんご夫妻とっておきのお店へ足を運べば、お店側も「ああコルテ・サン・ピエトロの紹介?! いらっしゃい!」なんて、ちょっとうれしいエコひいきがあったり、なかったり(笑)。マリーサさんの当たり前の暮らしをなぞるような街歩きが楽しめます。コルテ・サン・ピエトロなら、南伊らしいもてなしの良さ、洞窟の魅力に美しいインテリア……ヒューマンスケールの気持ちのいい滞在になることうけあいです。
Corte San Pietro(コルテ・サン・ピエトロ)
住所Via Bruno Buozzi, 97 - 75100 Matera(マテーラ市)
電話+39 0835 310813
HPhttp://www.cortesanpietro.it/

白旗 寛子

1974年生まれ。2003年からマテーラ在住。イタリア人の胸を借り、バジリカータ州広域にて、取材および番組コーディネーター、通訳・翻訳、日本語・伊語で執筆ほか。

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