「中世のシスティーナ礼拝堂」が残るラツィオ州南部の町アナーニ

「中世のシスティーナ礼拝堂」が残るラツィオ州南部の町アナーニ
「中世のシスティーナ礼拝堂」と呼ばれるアナーニのフレスコ画
ローマの近郊には、「教皇の町」と呼ばれる小さな町がいくつかあります。ヴィテルボがその筆頭に挙げられますが、ローマの南側にはアナーニという町があり、この町も「教皇の町」として知られているのです。そしてなによりも、この小さな町には「中世のシスティーナ礼拝堂」と呼ばれる美しいフレスコ画が残っています。
4人の教皇さまたちを輩出した町

4人の教皇さまたちを輩出した町

町中で見られるカエターニ家の紋章
アナーニの町を歩き始めると、左上から右下にかけて波の柄が入った紋章をよく見かけます。これは、この地を治めていたガエタ―ニ家の紋章であり、アナーニの町の誇りでもある教皇ボニファティウス8世の紋章でもあります。 アナーニという町の名は、現在はそれほど知名度が高くありません。しかし、中世には4人もの教皇を輩出した格式高い町であり、12世紀から13世紀にかけては強い勢力を持つ町として繁栄したのでした。
ローマ大学をつくり聖年を設定した教皇

ローマ大学をつくり聖年を設定した教皇

アナーニは中世の栄華を残す町

アナーニ出身の4人の教皇たちの中でも、13世紀の終わりに登場したボニファティウス8世は突出した存在感を誇ります。 イタリアでは功罪さまざまといわれるボニファティウス8世ですが、ローマ大学を創立し、聖年を設定した教皇としても知られています。また、自らの銅像を作らせて、イタリア中にばらまいたプロパガンダの天才でもありました。教皇が自らの姿を彫刻や絵画に残すという風習は、彼から生まれたといわれています。 さらに、都市計画の概念も持っていたため、ローマの町の整備もすすめられました。「ライフ・イズ・ビューティフル」で有名な俳優兼監督ロベルト・ベニーニは、「イタリア人の卓越性」という演説の中で「『二車線』と『一方通行』という概念を生み出したのはボニファティウス8世だ」と語っているほどです。

アナーニの町は、このボニファティウス8世が今も生ける人のような存在感を持っている町なのです。その証拠に、町のあちらこちらでボニファティウス8世の紋章や彫像を目にすることができます。 余談ですが、1303年に起きた「アナーニの屈辱」という事件で彼は失脚します。当時のローマは、拮抗する貴族たちの抗争の場でもありました。自身が有力貴族出身であり、好戦的でもあったボニファティウス8世は、この内乱に敗れて歴史の舞台を去ることとなったのです。死因は、「憤死」と伝えられています。

「中世のシスティーナ礼拝堂」と呼ばれるサンタ・マリア聖堂のクリプタ

「中世のシスティーナ礼拝堂」と呼ばれるサンタ・マリア聖堂のクリプタ

天井から壁まで、ぎっしりと描かれたフレスコ画
ところで、アナーニにはボニファウス8世と並んで誇るべき遺産が残っています。それが、サンタ・マリア聖堂の地下に残るクリプタ(地下聖堂)です。 11世紀から12世紀にかけて建てられた教会自体も美しく、また教会内を飾るモザイクも繊細で華麗で目を見張るものがあります。しかし、地下におりてその壁から天井を覆うフレスコ画を目にすると、まるで別世界にいざなわれるような高揚感に襲われるのです。 クリプタは、教会部分と並行して建設されたといわれています。アーチの形が波のように連なる天井部分は、540平方メートル。名も知られていない中世の複数の画家たちによって描かれたとされているフレスコ画は、聖書の場面だけではなく古代ギリシアのヒポクラテスまで登場します。 このアナーニのフレスコ画は、歴史や美術に関するイタリア語の書籍のカバーにも頻繁に採用されるほどのすばらしい作品です。
町の最盛期に建てられた建築物があちこちに

町の最盛期に建てられた建築物があちこちに

ローマから1時間ほどの町ですが、ローマとは異なる雰囲気が漂う
アナーニは、ルネサンス時代より以前に最盛期を迎えた町です。その名残のように、町中に11世紀から12世紀頃の建物が残っています。町の中心にある市役所、「アナーニの屈辱」の舞台となった宮殿、荘重ないくつかの門などなど。 中世の街並みが残る都市はイタリアには数多く存在しますが、アナーニのような小都市でありながら4人もの教皇を輩出した町は珍しく、そぞろ歩きをしながらもかつての栄華を実感することができるのです。
サンタ・マリア聖堂
住所Via Leone XIII, 03012 ANAGNI (FR)
開館時間11月~3月 09.00 - 13.00 / 15.00 - 18.00
4月~10月 09.00 - 13.00 / 15.00 - 19.00
定休日不定休
電話+39 0775 728374
HPhttps://www.cattedraledianagni.it/

井澤 佐知子

イタリア生活十数年、ローマ近郊の田舎での生活ほぼ7年。 坂道を上るトレッキングシューズとリュックサックが必須の毎日。ローマの南、風光明媚なカステッリ・ロマーニを拠点に、家族とともに風のようにイタリアのあちこちを物見遊山中。 趣味は書籍の大散財。イタリアの美術、食文化、歴史をこよなく愛する。

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