ロンバルディア州レッコ湖畔とベルガモの森を結ぶ、地産地消の散歩道

ロンバルディア州レッコ湖畔とベルガモの森を結ぶ、地産地消の散歩道

イタリア最大の商業都市・ミラノは、物欲だって食欲だって思う存分満たしてくれるけど、街の喧騒に疲れてしまうことも。そんなとき、ふらりと立ち寄り、するりと入り込めてしまうローカルの世界があります。案内役は、「地産地消」で結ばれた屈強な男二人。彼らが見せてくれる生活環境はほどよい距離で結ばれ、その居心地のよい空気に、よそから来た者すらあっという間に馴染んでしまいそうです。

漁師はぐいっと魚を引き揚げ、ほいっと料理人の手に渡す

漁師はぐいっと魚を引き揚げ、ほいっと料理人の手に渡す

ミラノから北へ50kmほどの場所に位置するレッコ湖。さざ波一つ立たない静寂に包まれた湖の畔にある、小さな魚屋。裏の作業場で網を繕いながら、まるまると太ったラヴァレッロ(ホワイトフィッシュ)をどさっとビニール袋に入れてよこし、「ほらよ、あいつに持ってってやれ。『どーせ、ロクでもねー、チャンチャラ料理を作るんだろうけど』と、俺が言ってたってな」と、男は笑います。
ぽっちゃり顔に刻まれた深いしわに、体を張った漁師という厳しい仕事のかたわら魚屋「ダ・チェーコ」の切り盛りをし続けてきた、彼の一徹な気性がうかがえます。フランチェスコ・ギズランゾーニ(通称チェーコ)が挑発的なこの言葉を投げた相手は、ベルガモ郊外のうっそうとした緑の中でレストランを営む精鋭の料理人、マリオ・コルナーリ。チェーコがチクチク刺激しても、マリオはそれにばっちり皿の上で応えてしまう。だからまたまたチェーコも湖水に網を投げ、大物を引き上げれば、悪態交じりでもマリオに手渡さずにはいられない。ちょっと変わった、あうんの呼吸の二人です。

ダダダッとバイクで素材を集め、厨房でササッと構築する男

ダダダッとバイクで素材を集め、厨房でササッと構築する男

レッコから30kmほど行ったベルガモ郊外にある「リストランテ・コッリーナ」のオーナーシェフであるマリオ・コルナーリは、「地産地消」を軸にした洗練された料理で高い評価を得る料理人です。朝起きるとバイクにまたがり、さっそうと森へ畑へと生産者を訪ね、言葉を交わし、素材の多くを調達。小さな地域もくまなくまわれば、アスパラ、ラズベリーにチーズ、サラミやサフランなど、宝の山だと気づく。チェーコの魚屋にも普段は彼が直接出向いて、品定め。厨房に入る頃には、バイクのサイドバックに詰められた素材をどう活かすか、すでに心は決まっているのです。
生産者を知ればその素材を引き立てたくなるのが人情。塩加減も絶妙なところで手を止め、素材のバランスで味の醍醐味を演出する。それを口にする者は、気づかない間に料理に向き合わされ、うれしい驚きと共に、しっかりその一品を堪能する。
この日、太っちょラヴァレッロ魚と一緒にチェーコの挑発メッセージを笑って受け取り、マリオはそそくさと厨房に消えていきました。

「地産地消」が繋いだ輪を探れば、地域の深くが見えてくる

「地産地消」が繋いだ輪を探れば、地域の深くが見えてくる

マリオがテーブルに運んでくれたラバレッロは、ほとんど油の存在を感じないほどカラッと揚げられたフリットに姿を変えていました。添えられたジャガイモやズッキーニの土っぽさが白身魚の儚い甘みを背後から引き立て、力強さを感じさせる逸品に。
素材を生む側から作る側へと辿っていけば、よりディープな切り口で地域の人々のつき合い方が垣間見えてきます。チェーコやマリオの場合はベタベタせずいさぎよく軽口をたたき、刺激し合い、互いを育てている。見知らぬ者が訪ねて行っても、態度や接し方はさほど変わらないでしょう。愛想笑いが出来ないから。そんなところが、この「地産地消」の輪の居心地のよさの理由かもしれません。

岩崎 幹子

飾らない人たちこそ本当に素晴らしいものや味をその指先から生み出していく。見ているだけでワクワクするし、元気が出る。イタリアならではの人という宝を追い続けて20年。日本の皆さんと一緒に彼らを見つめ、作ったものに触れ、そして味わってもらいたい。そんな思いで楽しく水先案内人を務められたら思います。

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