ピエモンテ州で食らう肉は違う!

ピエモンテ州で食らう肉は違う!

ピエモンテの精肉店は、それぞれが独特の匂いをもった、いなせな空間! 清潔でちょっと甘ったるい空気の中に、牛、豚、鶏、七面鳥、ウサギ、羊、山羊といった扱う肉の種類、赤身や脂肪の多少、作業場の仕事の違い、風通しや湿度が複雑に入り混じった空間。店内に一歩入った客の鼻をくすぐるのは、その店にしかない独特な匂い。店の雰囲気と一緒にそれを鼻いっぱいに吸い込んだところで、そこで働く男たちのてきぱきした動きが見えてくる。ピエモンテの肉屋での楽しみは、既にそんなところから始まります。

ピエモンテの精肉店に並ぶ赤身肉の醍醐味

ピエモンテの精肉店に並ぶ赤身肉の醍醐味

師走に入ると、店のショーケースに並ぶ牛肉の赤身が一段と重厚になってきます。普段は軟らかく脂肪分も控えめの子牛肉があったところに、脂肪たっぷりの虚勢牛がどーんと並ぶからです。農耕用として扱いやすくするために虚勢されたピエモンテ種の雄牛、さらにこの子が4歳以上になって世代交代の時期を迎えると、役目を全うするために肉として下ろされる。感謝をしながらそれをいただくのは、ハレの日、つまりクリスマスの時期。これがピエモンテの農家の伝統的な暮らしの1ページでした。そして今でもそのなごりで、暮れになるとどこの精肉店でも虚勢牛の販売が始まります。
ピエモンテ州のなかでもモンフェッラートやクーネオ県南西部は、現在でも牛、そして特に肉用のピエモンテ種の肥育がさかん。あちらこちらで肥育牛の品評会が行われます。

ピエモンテの屈強な男たちの土くさーい祭典!

ピエモンテの屈強な男たちの土くさーい祭典!

「牛の肉付きの良し悪しはこうやってみるのさ」。『イタリア好き』本誌でピエモンテ州号Vol.7の表紙も飾ったビエッラの老舗精肉店「モスカ」の現店主ジョバンニが、1.5トンもある巨大な獣の大きなお尻にみっちりと張った白い肌をつまんで引っ張る。きちんと肥育された牛は、筋肉から皮がしっかり離れてぴよーんと伸びるのだとか。モンフェッラートの小さな町モンカルヴォで、毎年12月の第1水曜日に開かれる、肥育牛の品評会のその会場。高台にある小さな町の広場には、早朝5時ぐらいから肥育牛農家の屈強な男たちが作業着を羽織り、牛を御す杖を片手に、続々と集まってきます。トラックの荷台を開き、少しナーバス気味な獣たちを事故の起きぬよう周囲に目を配りながら地面に下ろすと、お尻を外に向けて繋ぐ。「よーし、よし! 」牛の体をなでてやって、ストレスを和らげてやる。でも、緑の作業服を着た審査員は、既に多くの牛の背中に視線を投げています。彼らの長年で培った目利きの目は、鋭くて意地悪。冬の太陽も低く傾き始め、優勝者が発表される昼過ぎまでは、肥育牛農家の人たちも精肉店のオーナーたちも緊張のほぐれる瞬間はありません。

一筋縄でなく肉文化を育ててきた!

一筋縄でなく肉文化を育ててきた!

この肥育牛の品評会ですが、牛を育てた人とその牛を購入した精肉店が一組になって参加します。家畜は生きている間にその良し悪しを見極められて、売り買いされるんですよ。品評会で入賞すると、トロフィーや賞状も精肉店が持って帰ります。最終的にこれは精肉店の目利きの能力を競う大会。目利き能力を認められた精肉店では、年間を通して良質の肉を提供しているという証になる。そんなお店がこれはうまい肉だと納得して手に入れたら、やっぱりその店でも特に大事に扱うでしょう。肉を使ったお惣菜にしても思い入れもひときわで、丁寧に作る。そんな形で、品評会はピエモンテ牛の質の向上に寄与しているんです。
今年、ビエッラのモスカさんは、品評会で5、6年ぶりに念願のグランプリを手にしました。「やっぱり肉好き」な州知事も入っての記念写真で、店主のジョバンニも清々しい笑顔。でも来年は、きっとまたモスカさんのライバルたちがそれに勝る立派な牛をひいてくるはずです。
こんな地域だから肉文化の奥はとっても深い。こんな肉屋がたくさんいるから、ピエモンテに来ると、やっぱりシズル満点の肉に手がのびちゃうんですね。

岩崎 幹子

飾らない人たちこそ本当に素晴らしいものや味をその指先から生み出していく。見ているだけでワクワクするし、元気が出る。イタリアならではの人という宝を追い続けて20年。日本の皆さんと一緒に彼らを見つめ、作ったものに触れ、そして味わってもらいたい。そんな思いで楽しく水先案内人を務められたら思います。

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