ほんものの農家の、昔からの暮らしをマルケ州で体感。サルーミ生産ファームステイ

ほんものの農家の、昔からの暮らしをマルケ州で体感。サルーミ生産ファームステイ

時代とともにイタリアでも消えつつある、“ほんものの農家のくらし”。アグリツーリズムやファームは星の数ほどあれど、この“ほんもの”という言葉が指すのは、生活と自然のサイクルが共生し、自給自足が当たり前だった時代に、家畜に与える餌や干草を栽培し、放牧し育てた家畜でサルーミ(サラミ、ハム類の保存食)を作り、自ら育てた小麦粉と母や祖母の代から受け継がれている酵母でパンを焼く……そういった一連のことが、日常的に家庭内であたりまえのように行われていた時代の生活を意味しています。そんな生活を垣間見られる小さな楽園「カル・ビアンキーノ(Cal Bianchino)」が、マルケ州の片隅にあるのです。

スローを語らずとも、生き方そのものが彼らの次世代へのメッセージ

スローを語らずとも、生き方そのものが彼らの次世代へのメッセージ

カルロとジージャ、この二人を知らない人はマルケ北部で食に関わっている人々の間ではそういません。それぞれが農家の出身でウルビーノの大学を卒業したあと、自分たちらしい生き方を模索して行き着いたウルビーノ近郊の現在の丘に囲まれたファーム「カル・ビアンキーノ(Cal Bianchino)」。彼らの農地から生まれるのは、家畜たちのために栽培される藁や飼料、パンを作るための小麦、自然の中で駆け回るチンタセネーゼ種の豚たちから生まれるサラミやハム。彼らのキッチンは温かい生活の香りや、語り継がれるべき食文化のあるがままの姿が見られ、そこには昔から食べられてきた土着的な郷土料理の原型に出会うことができます。

カルロの受け継いできたコンチャ・ディ・マイヤーレ(豚の解体、加工)

カルロの受け継いできたコンチャ・ディ・マイヤーレ(豚の解体、加工)

旦那さんのカルロは、小さな頃から親戚のサルーミ(豚加工品)作りを見て育ってきました。各家庭で豚を解体し、生ハムやサラミ類、サルシッチャを作るのは、昔は肉屋さんのお仕事ではなく、冬の農家の風物詩でした。隣人が集まり、それぞれに仕事を分担して加工し、内臓など痛みやすい部分は、その日のうちに手伝ってくれた隣人たちの仕事をねぎらう食事のメニューとなる。庭で摘んだハーブを入れ、煮込みやグリルにされ、農家ならではのごちそうが生まれます。
農家では一大行事だった豚の解体は、ひとつの命を育て上げ、糧として大切にそれをいただく一連の儀式でもあり、厳しい季節を生き抜くためのタンパク源を保存食として加工する、季節のサイクルの中に組み込まれた食の大切なイベントでもありました。既にきれいに処理されたもも肉などのパーツを流れ作業で加工していく工業的な現代のサルーミ作りとはかけ離れた、先人の足跡としての食の行事に触れられる、特別な時間なのです。

コンタディーノ(農民)の無限の知恵と、季節へのリスペクト

コンタディーノ(農民)の無限の知恵と、季節へのリスペクト

カルロとジージャ、二人が昔ながらの農家の生活を継続していくことを決めたのには、彼らなりの哲学がありました。昔は農民というと農耕はできても無知なものという考え方が一般的で、閉鎖的な物事の考え方が主流であり、男尊女卑も根強かったとか。その反面、季節ごとの農作業は月の満ち欠けや自然現象を熟知した豊かな知恵を軸に行われており、祖父母の語ってくれたそういった言い伝えや季節ごとの風習を、小さな頃から聞かされながら育ったそうです。その後、新しいメンタリティーを求めて進んだウルビーノ大学で出会った二人は、現代のための農業のあり方について模索。古きよき知恵を基盤に、現代の人々にも自然のサイクルに沿った生き方を体感してもらえるよう、体験型のファームを立ち上げることを決意し、夢のように美しい丘の景色に囲まれたウルビーノ近郊をその拠点としたのです。

自ら作るソーセージを食し、家族の一員としてテーブルを囲む

自ら作るソーセージを食し、家族の一員としてテーブルを囲む

このファームで体験できることのメインは、ソーセージやサラミ作り。専用の工房内でカルロの手ほどきを受けながら自分たちで作るソーセージをいただくのは、とても貴重な体験です。 天候や季節が許さず豚の解体ができないときでも、ジージャが作るパン焼きを見たり、農作物の収穫の様子を見たり、採れたての野菜で保存食を作ったり……と、四季を通して日めくりカレンダーのごとく、何かしらの体験が待っています。レストランでは味わえない、家庭で受け継がれてきた自然の恵みいっぱいの食卓を共に囲み、果てしない丘の景色に囲まれながら豊かさについて思いを馳せる時間、これこそが本当の贅沢に他なりません。色々なものを見てきた20年のイタリア生活を経た今であるからこそ、消えていって欲しくないイタリアの魅力として強く感じる、そんな大切な空間なのです。
カル・ビアンキーノ(Cal Bianchino)
住所 Via Cà Andreana 10 , 61029 Urbino (PU)
TEL072 244 41
営業時間不定期、事前に要アポイントメント
休日不定期、事前に要アポイントメント
料金3〜4名 60ユーロ(1人)、5〜7名 55ユーロ(1人)
※3名以上〜予約可。別途通訳アテンド料あり。

林 由紀子

1999年からイタリア在住、ファエンツア国立陶芸美術学校を経てアーティストBertozzi&Casoniのもとで修行、彼らとの仕事を通してイタリアの食とアートの繋がりを強く認識。移り住んだマルケの土着的な自然、工芸、食文化に関わる人々にインスピレーションを受けてマルケを紹介しようと製作の傍ら通訳アテンド活動を開始。マルケの郷土食などを紹介する文化アソシエーション”Mac Caroni"運営メンバー

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