マルサラ地方に伝わる農民ワイン「Perpetuo(ペルペトゥオ)」

マルサラ地方に伝わる農民ワイン「Perpetuo(ペルペトゥオ)」

おそらく小麦色のキラキラとしたクリスタルに輝くワインを想像するかと思います。でも、この今想像する白ワインは現在のワイン醸造のテクノロジーがあってこそ、醸造することができるワインであることをご存知でしたか?
昔はワインと言えばほとんどが「赤ワイン」でした。赤ワインを造る黒ブドウはタンニンやポリフェノールを白ワインを造る白ブドウよりも多く含み、保存性に優れていたから。しかし私が住む西シチリアのトラーパニからマルサラ地方にかけての土壌は黒ブドウよりも白ブドウの栽培が適している土地。そこでこの地方では白ブドウを使った独自の製法のワインが伝統的に造られていました。それが「ペルペトゥオ」なのです。

永遠に終わることのないワイン

永遠に終わることのないワイン

ペルペトゥオとはラテン語で「永遠に」という意味。なぜこの名前が付いたかというと、このワインは毎年、その年に収穫されたブドウから造られたワインを樽に入れ、つぎ足しながら熟成させます。そう、だから永遠に終わらないワインというわけなのです。トラーパニからマルサラにかけての地区は、シチリアの中でもとりわけ太陽光線が強く、ブドウの糖度がかなり高くなる土地。そんなブドウで造ったワインはアルコール度も上がり、自然発酵で16度まで達すると言われています。さらに毎年新しいワインをつぎ足すことで酵母が活性化し、アルコール度数は更に上昇。アルコール度数の高いワインを造ることで、それが天然の保存料となり長期保存が可能な「白ワイン」を造ることが可能だったのです。かなり気温が高く、太陽光線が強いこの土地の気象条件を利用して造られていたのがペルペトゥオ。逆に言えば、この土地でしか醸造できないワインとも言えるでしょう。

長い時間が作り上げる輝きと熟成香

長い時間が作り上げる輝きと熟成香

それではペルペトゥオはどんな風味なのでしょう?
ペルペトゥオは樽で醸造するため、色は「琥珀色」。光に当てるとキラキラと輝やき、それはそれは美しい。そして鼻をグラスに近づけてみると……そのふくよかな香りに驚きます。口に含んでみるとなんとも言えない熟成した風味、そしていつまでも口の中と鼻の奥に残る歴史の織りなす香り。樽熟成させるペルペトゥオは寝かせれば寝かせるほどおいしくなるといわれてます。写真のペルペトゥオは60年以上、毎年ワインを継ぎ足しながら熟成されたもの。しかしとても60年も経ったワインとは思えないほどの風味に本当に驚かされます。

世界で唯一のコレクション

世界で唯一のコレクション

かつてはこの地方の農民の家には必ず家にペルペトゥオ用の樽があったことから、私はこのワインを「農民ワイン」と呼んでいます。お祝いごとや大切なお客様が来た時にふるまっていた大切なワイン。親から子へ受け継がれてきたこの農民ワインの伝統も、最近では農業を選ばない子供が増えてきたため、その伝統もすたれつつあります。そんな行き場のなくなったペルペトゥオを農家から譲り受けてきたのが醸造家ジャコモ・アンサルディ氏。ジャコモはマルサラ郊外に生まれ育ち、醸造学校を卒業後、ピエモンテ州で武者修行。そしてマルサラに戻って来たある日、ブドウ農家のおじいちゃんの家に招かれペルペトゥオを差し出され、

「このワインについて語ってみなさい」

と言われました。
ペルペトゥオは醸造学校の教科書にも載っておらず、知識はゼロ。
醸造の知識はあっても地元の伝統のワインを知らなかったことに衝撃を受けたジャコモは、このことがきっかけで農家をまわりペルペトゥオの研究を始めました。
その後、マルサラ地区の農家は後継ぎ問題が続出し、そんな農家から「必ず毎年ワインをつぎ続けること」を条件にジャコモはペルペトゥオを譲り受けたのです。自分が経営するワイナリーに1000リットル入る樽を28樽作り、ペルペトゥオコレクションをつくったのです。

「僕の子供達の代まで続くよう、100年以上続く樽を特注で作ってもらったんだよ」

と誇らしげなジャコモ。
今では世界で唯一のペルペトゥオコレクションとして、世界各国から試飲に訪れるワイン専門家がいるほど。
奥様のパオラと一緒にこのコレクションを守っています。

古代フェニキュア人の時代から続いているとも言われるペルペトゥオ。
今あるペルペトゥオがその名の通り、永遠に続く事を祈るばかりです。

佐藤 礼子

2005年よりイタリアの南の島、シチリア島在住。力強い大地の恵みと美しい大自然に魅せられ、シチリアに残ることを心に決める。シチリア食文化を研究しつつ、シチリア美食の旅をコーディネートする「ラ ターボラ シチリアーナ」を主宰、トラーパニで活動中。年に数回日本でも料理教室を開催。趣味は畑とオリーブオイル造り。

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