限定!年末年始にこの地域で最も食べられる伝統菓子「パンドルチェ・ジェノヴェーゼ」をご存知ですか?

限定!年末年始にこの地域で最も食べられる伝統菓子「パンドルチェ・ジェノヴェーゼ」をご存知ですか?

イタリアの有名なクリスマス菓子といえば、ミラノのパネットーネ、ヴェローナのパンドーロ。もともとは地方菓子でしたが、今ではイタリア全土で食べられるクリスマス菓子として有名になりました。この時期になると、菓子店やスーパーマーケットで大量に陳列され、自宅用、帰省先へ持参する用、友人とのパーティ用、予備用にあともうひとつ……と、ひとりでいくつも購入するイタリア人を見かけます。「あなたはパネットーネ派とパンドーロ派どっち?」という会話をよく耳にしますが、リグーリア州では、ちょっと様子が違うのです。

アルト(厚い)派?それともバッソ(薄い)派?

アルト(厚い)派?それともバッソ(薄い)派?

リグーリア州でパネットーネやパンドーロにあたる伝統的なクリスマス菓子は、「パンドルチェ・ジェノヴェーゼ(または、パンドルチェ・アッラ・ジェノヴェーゼ)」。リグーリア州のジェノヴァの方言では、パンドゥーセ(甘いパンの意味)とも呼ばれます。他の州では見かけませんが、リグーリア州のお菓子屋さんでは必ず販売されています。しかも二種類あり、ひとつは厚く膨れ上がって柔らかい食感の「アルト」、もうひとつは平べったくて固めの食感の「バッソ」。アルトが先に誕生し、後にバッソが作られるようになりました。作り方の違いは、発酵の回数。アルトは二次発酵を行うため、できあがるまでの時間がバッソよりとても長くなります。リグーリア州の人たちには、それぞれ好みのタイプがあります。アルト派とバッソ派のそれぞれの来客者を喜ばせるため、両方をクリスマス大昼食会へ向けて用意するという、懐の深いマンマたちもいるほどです。クリスマス後も1月6日のエピファニアの祭典までという長い期間食べるため、どの家も多めに用意しているのです。お店が閉まる年末年始の保存食としても大活躍です。

パンドルチェ誕生の言い伝え

パンドルチェ誕生の言い伝え

時はさかのぼり、16世紀。ジェノヴァ共和国の名家ドーリア家出身で海軍総督としてヨーロッパで大活躍したアンドレア・ドーリアは、ジェノヴァの豊かさをアピールできて、町のシンボルとなるお菓子を創り出すため(親戚の結婚式のためのお菓子として公募したという説もある)、ジェノヴァの菓子職人たちに向けてお菓子のコンテストを公示したと言われています。新しいお菓子作りの重要な課題は、船旅に持っていけるように長期保存が可能であることと、もちろんおいしいことでした。こうして、パンドルチェは誕生したと言われています。他に、ペルシャ人が王様へ新年のお祝いに献上していた甘いパンが東方諸国と貿易関係にあったジェノヴァに伝えられ、それが発展したとも言われています。
昔は小麦粉、油、ハチミツ、干しブドウ、オレンジの花のエキス、フェンネルシード(またはアニスシード)、酵母菌を使った比較的質素なお菓子だったそうです。その後、オレンジにシトロンの皮の砂糖漬け、松の実が加わり、油の代わりにバター、ハチミツの代わりに砂糖を使用することで、より豊かな味わいになっています。

それぞれの家庭で受け継がれたレシピにより、材料に少し違いがあります。私の知人は小麦粉にマニトバ粉(イタリアのパン菓子作りに適した小麦粉)を少量加え、絶妙な食感を作り出します。また、フェンネルシードが苦手なジェノヴァ人は意外と多く、フェンネルシードの入っていないパンドルチェを作る人も多いです。高価な松の実の代わりにアーモンドがたくさん入って香ばしいものや、クルミと乾燥イチジク入りバージョンもよく食べられています。
お店で売っているパンドルチェもおいしいのですが、それぞれの家庭によって味や食感に違いがある手作りのパンドルチェは、年末年始の楽しみの一つでもあります。

誰がテーブルに運んで誰がカットするのかが、すでに決まっている?!

誰がテーブルに運んで誰がカットするのかが、すでに決まっている?!

古くからの風習で、パンドルチェを食べるときの手順が存在します。家族の中で一番若い者がパンドルチェをテーブルの上へ運び、飾りとして乗せられたオリーヴ(または月桂樹)の小枝を取り除きます。そして家族の中で一番年長者がパンドルチェを切り分け、食事を共にする者たちへ配分します。遠い親戚や友人・知人の家族が訪れることもあるため、今回は誰が一番若くて一番年寄りかを巡って、いつも大盛り上がりです。
また、昔はパンドルチェの一切れは、最初に扉を叩いた旅人(または物乞いする者)へ。もう一切れは、2月3日の聖ビアージョの日のために取っておいたとも言われます。聖ビアージョはのどに食べ物の骨が刺さった子どもを助けたという言い伝えから、現在は病気などからのどを守る聖人として知られています。風邪を引きやすい寒さの厳しい2月、今のような暖房設備がなかった昔の人々(特に子供や老人)は、のどの病で大事に至ることもあったでしょう。それゆえに、聖ビアージョの日をお祝いすることは、家族の健康を祈願する意味も込められていたようです。

パンドルチェ、世界へ羽ばたく

パンドルチェ、世界へ羽ばたく

イタリア国内だとほぼリグーリア州でしか出会えないパンドルチェですが、アメリカやイギリスでは「ジェノア・ケーキ(Genoa cake)」という名前で販売されています。本家リグーリア州のパンドルチェはケーキ型を使わず作られ、丸い形をしている事が特徴ですが、外国ではパウンドケーキ型(長方形)をしていて真空パックで売られているものが多いようです。 リグーリア州のお菓子屋さんではクリスマス時期に限らず、手土産用として一年を通して売られています。年末年始は品薄になりますが、最近では手のひらサイズの小さなものもありますので、リグーリア州へお越しの際はぜひご賞味ください。日持ちも良いので、旅のお土産に最適ですよ。

大西 奈々

2011年よりジェノヴァ在住。日本で芸術大学修士課程修了後渡伊、音楽院を卒業。演奏会でリグーリア州各地を周り、小さな街の独特の文化や景色に魅せられる。趣味は休日に骨董市をまわったりジェノヴァ近郊の街を探検する事。バリエーション豊かな伝統工芸品やリグーリア産の食材の産地、料理の情報をお届けいたします。

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