16世紀頃から食べ続けられる野菜パイ「トルタ・パスクワリーナ」とは?!

16世紀頃から食べ続けられる野菜パイ「トルタ・パスクワリーナ」とは?!

ジェノヴァの有名な食べ物といえば、ペスト(ジェノヴェーゼーソース)、フォカッチャ、ファリナータなどが思い浮かぶのではないでしょうか。ジェノヴァの人に聞くと、さらにたくさんの料理名をあげてくれますが、そのなかには必ず「トルタ・パスクワリーナ」という答えが返ってくるはずです。こちらは日本ではほとんど知られておらず、よっぽど料理通の方しか耳にしたことがないかもしれません。
トルタ・パスクワリーナとは、ビエートラ(不断草)、プレシンスーア(リグーリア州の代表的な酸味のあるフレッシュチーズ。ヨーグルトとリコッタチーズの中間のような食感)、復活祭のシンボルの卵を丸ごと入れて、オーブンでじっくりと焼き上げたパイのこと。キッシュとは違い上部もパイ生地で覆われているため、切り分けるまでどこに卵が入っているか分かりません。「マンマミーア! 私の分には卵が入っていない!」ということがときどき起こるため、どの切り身にも卵がまんべんなく入るように、大量の卵をパイの中に忍ばせるマンマもいます。

リグーリア州での復活祭といえばこの料理!

リグーリア州での復活祭といえばこの料理!

パスクワリーナの名のごとく、パスクワ(復活祭)の時期になるとリグーリア州の食卓に欠かせない食べ物です。復活祭翌日のパスクエッタと呼ばれる祝日には、前日の残りのトルタ・パスクワリーナを持って友人たちとピクニックをし、山の上で食べるのがリグーリア州では定番の様子。数年前に現地の友達とパスクエッタを過ごしたとき、見事に皆トルタ・パスクワリーナを持参していました。友人同士で交換し「君の家はこんな味なんだ〜」などと言いながら食べていましたよ。
冷めてもおいしい食べ物ということもあり、作り置きができて何かと便利。復活祭の時期のみならず、年中通してマンマが腕を振るってくれます。

リグーリア州以外の町でも復活祭の時期に食べられるようですが、どれもプレシンスーアの代わりにリコッタチーズが代用されています。なぜならば、プレシンスーアはリグーリア州以外では手に入れることが難しい、ちょっと珍しいチーズだからです。見た目は似ていても風味が全然違いますので、ぜひ一度、本場のトルタ・パスクワリーナをご賞味いただきたいです!

実は、ものすごく古い歴史のある食べ物

実は、ものすごく古い歴史のある食べ物

歴史は古く、16世紀にさかのぼります。当時はガッタフーラ(Gattafura)と呼ばれていました。1570年に教皇ピオ5世の料理人、バルトロメオ・スカッピによって書かれた料理書『Opera』の中に「ガッタフーラ・アラ・ジェノベーゼ(Gattafure alla Genovese)」 の名前で、ビエートレとタマネギの2種類の野菜パイが紹介されています。この本でレシピが紹介される以前から、当時の美食家たちの間ではすでに「おいしい」と有名な食べ物だったのだそう。他にも手記や小説、詩などでガッタフーラとそのおいしさについて書かれたものが数多くも残されています。階級を問わず庶民から貴族、また聖職者たちの食卓で愛された食べ物なのでした。

さて、ではなぜ「ガッタフーラ」と呼ばれていたのでしょうか。その由来にはいくつか仮説があります。書いて字の如く、「Gatta(=猫)fura(=盗む)」つまり、「猫が盗む」ほどおいしい食べ物、というのが語源という説がまず一つ。また、料理界の共通語であるフランス語の「ガトーフレ(Gâteau fourré)=中身の詰まったケーキの意」の発音を似せてガッタフーラと呼ぶようになったのでは?という、少し興味深い仮説もあります。

呼び名が変わり、バリエーション豊かに進化を遂げる

呼び名が変わり、バリエーション豊かに進化を遂げる

ビエートレとタマネギが具材だったガッタフーラは、18世紀になるとバリエーションが増えます。1765年に書かれたジェノヴァの貴族、ドーリア・ディ・モンタルデオ家の料理書に、(1)お米と卵(2)アーティチョークとプレシンスーア(3)タマネギとプレシンスーア(4)茸とプレシンスーア の組み合わせのレシピが紹介されています。これらは今でもジェノヴェーゼたちに愛される、定番中の定番の組み合わせです。

その後、復活祭の時期に食べられることが習慣となり、トルタ・パスクワリーナと呼ばれることが定着し、今に至ります。どんどん進化と変化を遂げるこの食べ物に、1860年代にかけて「トルタ・パスクワリーナとは何ぞや」ということを定義する料理書が2冊発行されました。そこには、トルタ・パスクワリーナは厳密に2種類に分類されると記されています。材料は同じなのですが、生地の中身として下層がビエートレ、上層がプレシンスーアの2層になっているものをパスクワリーナ。ビエートレとプレシンスーアが混ぜ合わせられているものを「カップッチーナ」又は「カップッチャ」と呼び、区別されました。現在はどちらも一般的にトルタ・パスクワリーナとひとまとめに呼ばれます。ぜひジェノヴァで食べる際には、断面を一度チェックしてみてくださいね!

現地で野菜パイを食べてみたい!

現地で野菜パイを食べてみたい!

トルタ・パスクワリーナは丸ごと卵が入ったものですが、卵なしは「トルタ・ディ・ビエートレ」と呼ばれ、他の野菜のパイ同様に年中手に入ります。レストランでは前菜に野菜のトルタの盛り合わせとして提供されることもありますが、もっと気軽に味見してみたい!という方にオススメなのが、ジェノヴァ語で「シャマッダ」と呼ばれる、テイクアウト店へ足を運ぶことです。シャマッダとは「燃え上がる炎」の意味。こじんまりした店内に大きな窯がある、ジェノヴァの昔ながらのお持ち帰り料理専門のお店のことです。 ファリナータやカスタニャッチョなどの窯焼き料理と共に、種類豊富な野菜のトルタが並べられ切り売りされています。イタリア旅行中、ついつい胃に重たいものを食べ過ぎてしまい野菜不足に……ということがあると思いますが、そんなときに野菜のパイはオススメです。ジェノヴァの旧市街地にいくつか老舗のシャマッダがあります。小さくて狭い店内のため、入店するのに勇気がいりますが、(ジェノヴァのお店にしては珍しく!)、気さくな店員さんが多いように感じます。「ヴォッレイ ウンポ ディ クエスタ (=Vorrei un po’ di questa.(=これをちょっとだけ欲しいです)」と指差しながら注文すれば、大丈夫! シャマッダでお買い物をして、ジェノヴェーゼ気分になってみてくださいね。ちなみに私のオススメは、定番のビエートレとタマネギ。秋頃には、カボチャがたっぷり入ったパイもあります。甘くておいしいので、ぜひお試しください。
シャマッダ・トルタ・ファリナータ 揚げ物屋(Sciamadda Torte Farinata Friggitoria)
住所 Via Ravecca 19/R, (GE) (ポルタソプラーナ、コロンブスの生家の近く)
営業時間月〜土曜日 11:00〜夕方(商品がなくなるまで)
休日日曜日・イタリアの祝日

大西 奈々

2011年よりジェノヴァ在住。日本で芸術大学修士課程修了後渡伊、音楽院を卒業。演奏会でリグーリア州各地を周り、小さな街の独特の文化や景色に魅せられる。趣味は休日に骨董市をまわったりジェノヴァ近郊の街を探検する事。バリエーション豊かな伝統工芸品やリグーリア産の食材の産地、料理の情報をお届けいたします。

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