2019年の首都イヤーに世界遺産「洞窟住居」地区でサルヴァドール・ダリの彫刻展

2019年の首都イヤーに世界遺産「洞窟住居」地区でサルヴァドール・ダリの彫刻展
『ダンス・オブ・タイムII(1984)』
「欧州文化首都」制度をご存じですか? これはEUが成るより随分前の1985年から続く、ヨーロッパ最大級の文化の祭典です。首都は1年の持ち回りで、当番国のどの都市でも立候補できます。首都に選出されると、その町らしい芸術文化のイベントが一年に渡って繰り広げられます。2019年は、なんとマテーラの首都イヤー。「ヨーロッパの首都」に沸くマテーラから、世界遺産サッシ(洞窟住居)地区の魅力も十分に体験できる、ダリの彫刻展のご案内です。
千年の岩窟教会でシュルレアリスムの彫刻を鑑賞。ダリ『対立の固執』展

千年の岩窟教会でシュルレアリスムの彫刻を鑑賞。ダリ『対立の固執』展

『メタモルフォーゼ 引き出しと交差するミロのヴィーナスの類型* (1988) 』© Dali Universe *原題「Métamorphose Topologique de la Vénus de Milo Traversée par des Tiroirs」。伊、英語のタイトルも原題のまま。
ぐにゃりと垂れた時計の絵があまりにも有名なダリですが、ダリ・ユニバースが主催する本展は、彫刻家・造形美術家としてのダリに光をあて、ブロンズ像を中心に金やクリスタル像、家具、装丁本、グラフィック作品など200点あまりが2019年いっぱい洞窟の空間と競演しています。クリーンな美術館ではぎょっとするようなダリの彫刻も、もともとシュルレアルな洞窟空間では「すわりがよい」のです。 アートには疎くても、正面から見て、裏に回って……と全方位的に楽しめるダリの彫刻ですが、ほんの少しダリを知ればもっとおもしろい。ダリ・ユニバースのルイージさんによると、ダリの作品には執拗に表れるモチーフがあります。例えば『スペース・ヴィーナス』なら、「断絶した身体」、「柔らかい時計」、「蟻」、「卵」がそれです。
マドンナ・デッレ・ヴィルトゥ岩窟教会(およそ11世紀)

マドンナ・デッレ・ヴィルトゥ岩窟教会(およそ11世紀)

会場も見どころ! マドンナ・デッレ・ヴィルトゥ岩窟教会と洞窟コンプレックス
美の女神であり、西洋彫刻の完璧な美の象徴であるヴィーナス。それが真っ二つに切断されていて、心をざわざわさせます。首に垂れた「柔らかい時計」は「肉体の美はやがて消滅するが、芸術は永遠である」ことを、腹部をはう2匹の「蟻」は「朽ち果てていくもの」を表します。これらと「対立」する「卵」が「再生と永続」を喚起します。 一つの作品が、過去(伝統)、現在、近い将来(死)、そして未来永劫という「時」(同展のテーマの一つでもある)を内在しているわけです。 さらに同作の「時計」の文字盤には5と11がありません。これは「5月11日生まれのダリは、時間もこの無常の世界も超越している」という、控えめなんだか尊大なんだか分からない、いかにもダリらしい自らの才能の誇示になっています。これは『イタリア好き』だけの内緒話(笑)。
会場も見どころ! マドンナ・デッレ・ヴィルトゥ岩窟教会と洞窟コンプレックス

会場も見どころ! マドンナ・デッレ・ヴィルトゥ岩窟教会と洞窟コンプレックス

マドンナ・デッレ・ヴィルトゥ岩窟教会(およそ11世紀)
マテーラでは、キリスト教も洞窟の中で花開きました。周辺には少なくとも143の岩窟教会跡が残っていますが、ひときわ異彩を放つのがマドンナ・デッレ・ヴィルトゥ岩窟教会です。 千年も前に掘られたことを、一瞬忘れるほど堂々とした堂内は、当時のカトリックの聖堂建築に則って三廊式。とはいえ0から築き上げる聖堂と、岩場を掘り出して造る聖堂では、勝手が違います。その好例が、天井に連続する大小アーチのレリーフです。
中央身廊の天井のレリーフ。高窓(大アーチ)と「マトロネオ」(小アーチ)を岩窟の聖堂で再現すればこうなる。
同じキリスト教でも、東方正教が生み出していくビザンチン建築と、その様式美がひたひたと浸透した南イタリアのロマネスク様式の教会堂には、左右の側廊の上階に、「マトロネオ」と呼ばれる女性信者用のいわばギャラリー席が残っています。それを律儀に再現したのが小アーチのレリーフ。大アーチは、こちらも洞窟ではまず不可能な窓を再現しています。 教会は縦横に広がる洞窟空間の一角に過ぎず、教会から続く洞窟の集合体は修道院の跡、階段を上れば「ギリシアの聖ニコラス岩窟教会(9世紀。ビザンチン様式)」へと続きます。ダリの彫刻をたどって行けば、洞窟コンプレックスをくまなく探検できるという趣向。しんとした洞窟空間に紛れ込んでみるだけでも、夏季ならば強烈な日差しを逃れる避暑対策にもおすすめです。 なおダリ『対立の固執』展には、ミュージアムショップ、ムルジャ渓谷を見晴らすカフェやダリ・ユニバースが所有する真作コレクションが購入できるアートギャラリーもあります。ぜひ余裕を持ってお出かけください。
マドンナ・デッレ・ヴィルトゥ岩窟教会 (Complesso rupestre di Madonna delle Virtù e San Nicola dei Greci )
住所 Via Madonna delle Virtù (MT)
TEL377 444 8885
営業時間月~木曜10:00~18:00、金~日曜10:00~20:00 ※サルヴァドール・ダリ『対立の固執』展 Salvador Dali “La persistenza degli opposti” (2019年12月31日まで)
休日 なし
料金一般12ユーロ、7~12歳・国際学生証を提示する26歳以下の学生・65歳以上・障がいをお持ちの方8ユーロ、6歳以下・障がいをお持ちの方の付添いの方は無料

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白旗 寛子

1974年生まれ。2003年からマテーラ在住。イタリア人の胸を借り、バジリカータ州広域にて、取材および番組コーディネーター、通訳・翻訳、日本語・伊語で執筆ほか。

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