天然の植物から生まれる色の魔法!ワークショップで自分だけの絵の具を作る

天然の植物から生まれる色の魔法!ワークショップで自分だけの絵の具を作る

芸術の国イタリア。この国が多くの世界的画家や芸術家を古くから輩出してきたのは周知のことですが、そんな芸術家たちが手がけてきた作品の制作を支えてきた“色”、つまり、顔料というのが何から生まれていたのか、どのように作られていたのかをひも解く工程は、多くの芸術ファンには知られていません。素晴らしいフレスコ画の中に潜んでいる、微妙で複雑な美しい色合い。数々の歴史のシーンを彩ってきた、聖職者や貴族の衣装たち。このような絵画や染色に使われてきた顔料抽出は、イタリアではかつて修道士の極秘のミッションとして生まれたと言われています。その歴史をさかのぼりながら、自分の手で色素を抽出して絵の具を作れるワークショップの紹介まで、一緒に色の世界をめぐってみましょう。

“色”の世界の歴史をのぞく

“色”の世界の歴史をのぞく

現代は数多くの画材や顔料が文具店や画材屋に並び、何百というトーンの中から好きな色を選べる時代ですが、500年前や1000年前は、顔料の存在とはどのようなものだったのでしょう。鉱物や動物由来のもの、植物由来のもの。宗教絵画を描くための顔料や、聖職者の衣装を染める染料。

中世の初期では、それらを抽出する技術は職人の工房内で生まれたものではなく、文献を解読できる聖職者たちがいた修道院内で研究され、守られてきました。それは錬金術とも言えるほど珍重され、製法は極秘情報として決して外部に漏れてはいけないものでした。鉱物は遠方から運ばれ、植物は修道院内の敷地で栽培されたり、近郊の野山で採集されたりしていたようです。

そうして生まれた顔料は、貴重で高価なものとして修道院の経営する薬局で販売されていました。中世の薬局は、薬に限らずこういった顔料やアルコール類など、いわゆる製造技術が修道院内に限られて生産されていたものを豊富に取り揃えていた、最高級品を揃えたドラックストアのようなものだったと言えるでしょう。

見直される天然顔料の良さ

見直される天然顔料の良さ

現代では芸術や美術に携わっている人でも、かつてどのように顔料がつくられていたのか、というテーマに触れる機会はほとんどありません。でもよく考えてみれば、こうして何百年もの年月を経た作品を鑑賞するとき、色を作る技術こそが絵画の歴史を支えてきたのだという実感に駆られるのも本当です。自然の中から素材を見つけ、色素を抽出して顔料が生まれる……気の遠くなるような工程を経て作られる顔料をふんだんに使いフレスコ画が描かれてゆく様子を想像すると、ありふれている文化財が、どれだけ貴重なもので知識の宝庫であったのかという新鮮な感動が湧き上がってきます。
近年イタリアでは、主に修復士や染色家、シュタイナーの幼児教育に関わる人たちなどの間で絵の具や顔料の知識を深めようとする方たちが増え、その独特で複雑な色合いが人気を呼んでいます。私自身もとても興味を持ち、過去に地元マルケ州で開かれたワークショップに参加してきましたので、そのとき感じた驚きも含めてレポートしてみようと思います。

自作の絵の具を紙に乗せる喜び。天然顔料で作る絵の具のワークショップ

自作の絵の具を紙に乗せる喜び。天然顔料で作る絵の具のワークショップ

ここはマルケ州北部にある、小さな小さな秘境「ラモリ(LAMOLI)」。かつてルネッサンスの時代、大規模にホソバタイセイ「イサティス・ティンクトリア(ISATIS TINCTORIA)」という青い染色用の顔料を作るための植物が栽培されていた歴史のある地域です。
村の聖ベネディクト会の修道院跡には、小さな「色の博物館=ムゼーオ・デイ・コローリ・ナトゥラーリ(MUSEO DEI COLORI ATURALI DELIO BISCHI)」があり、こぢんまりとした空間に沢山の色の歴史の断片を見ることができます。
ここで開催される、天然顔料の抽出と絵の具作りのワークショップ。天然顔料で作られた水彩絵の具やパステルの生産に長年携わってきた色の魔術師・マルコ・ファントゥッツイさんが植物の採集から指導してくれ、プロ向けのきめ細やかな説明と実演を2日間に渡ってしてくださいます。これはまさに、色の山合宿!
ワークショップは3原色である赤、青、黄色の顔料作りがテーマ。特にこのワークショップでは鉱物や土のような原材料が見たままの色であるものではなく、植物から特に高貴で高価だったこの3つの色を引き出すという、とてもレベルの高いものです。使われる植物は、赤はアカネ、青はホソバタイセイ、黄色はレセダ・ルテア。それぞれの植物に違う作業工程があり、少しずつ色が引き出されていく様子は本当に楽しく、まるで自分もタイムスリップしたかのような新鮮な喜びが! 顔料を抽出したあとは絵の具にするための媒体と混ぜ合わせ、絵の具が完成します。最後にできあがった絵の具をコットン紙に伸ばしていくときの感動は、言葉では言い表せません。

先人の知恵に感謝し、自然の色と戯れる2日間

先人の知恵に感謝し、自然の色と戯れる2日間

このワークショップに参加することで得られるのは、技術はもちろんそうですが、何より貴重なのは先人の知恵と恩恵にあやかること。自ら体験してはじめて、良質な顔料を作ることの難しさや自然界が生み出す微妙で複雑な色合いの美しさを実感することができます。 そこにはお金では買えない自分だけの色、実体験が刻まれた思い出の色があり、その色を使って描かれる絵はもっともっと深い感慨を作った人に与えてくれます。ぜひ皆さんにも、中世から受け継がれてきた技術に触れながら自分の色を作っていただき、自分だけの絵の具で絵を描く喜びを体験していただけたら、と心から願ってやみません。 イタリアの片隅の小さな村で、ひっそりと色の魔法に触れてみませんか?
        
ラモリの色の博物館(Museo dei colori natiurali di Lamoli)
住所Abbazia Benedettina di S. Michele Arcangelo, Lamoli di Borgo Pace - Via dell'Abbazia,7 (PU)
TEL39 0722 80133
営業時間訪問のリクエストに合わせて開館、電話またはメールにて要予約
休日不定休
        
マルコ・ファントゥッツイさんのワークショップ
開催場所ラモリの色の博物館付属ワークショップルーム
最低参加人数5名から
必要日数2日間
参加費用(通訳、1泊分宿泊料と食事込み)お一人様450ユーロ(送迎料金別)
開催時期リクエストがあった場合随時開催、3月~9月ごろまでで要相談

林 由紀子

1999年からイタリア在住、ファエンツア国立陶芸美術学校を経てアーティストBertozzi&Casoniのもとで修行、彼らとの仕事を通してイタリアの食とアートの繋がりを強く認識。移り住んだマルケの土着的な自然、工芸、食文化に関わる人々にインスピレーションを受けてマルケを紹介しようと製作の傍ら通訳アテンド活動を開始。マルケの郷土食などを紹介する文化アソシエーション”Mac Caroni"運営メンバー

マルケの関連コラム

関連する旅プラン