人の手がこつこつ守ったもの。ベルベンノ村

人の手がこつこつ守ったもの。ベルベンノ村

こつこつ、こつこつ。山の人間は牛を飼うのもパンを焼くのも、こつこつ積み上げて形にする。チーズにするカードを木しゃもじにすくったら、そっと木枠に空ける。パンが発酵した最高のタイミングを見計らって、熱々のオーブンに。誰もが口を引き結んだまま働き、陽が暮れたら「ああ、今日も働いた!」と、やっと空を仰ぐ。都会なら即日完売の代物を声高に自慢するでもなく、作り続ける。ミラノのずっと北、ヴァルテッリーナのこの村の人は、これが普通なんです。

昔から、なんでもきっちり几帳面

昔から、なんでもきっちり几帳面

「誰かいる?」一声かけても返事がない。ベルベンノ・ディ・ヴァルテッリーナ村(Berbenno di Valtellina)で案内役のフランチェスカは、勝手知ったる民家の中庭に足を踏み入れちゃう。彼女について後ろから困惑気味についていくと、実用なのかアートなのかわからないほどきっちり積み上げられた蒔に息をのみます。ストーブに蒔をくべて暖をとってきた長い冬が終わり、突如心地よい日差しが差せば、まだ青っぽさの残る木材をこんな風に積む。どのみち端から使っていくのに……。「気持ちいいじゃない。それに昔から、この村じゃ皆こうしてるわよ」と、あっさり彼女は言い切ります。

ベルベンノ村は、牛の尻肉を塩漬けにする「ブレザオラ」や、夏の間だけ作られるチーズ「ビット」の生産で知られた地域。ミラノから車でレッコ湖を抜け、約2時間の距離にあります。この日は、聖ジュゼッペのお祭りの日。料理に大忙しの彼女の、次の村自慢スポットは……。

200年前のジュークボックスがあるのもベルベンノ村

200年前のジュークボックスがあるのもベルベンノ村

フランチェスカの伯父さんティツィアーノは、村の真ん中にあるバールの店主。バール脇の階段を上り建物に入ってすぐの共用スペースには、ピアノのようでいてどこか妙な楽器が3台おいてありました。これらは、いずれもティツィアーノのお父さんが購入したもの。1800年代にエルバにあったフラテッリ・ラッティ(Fratelli Ratti)工房で製作された「ヴェルティカーレ(Verticale)」と呼ばれるものです。左脇のハンドルの上には、その頃の流行った10曲ほどのレパートリー、あらあら選曲版にまである、まるでジュークボックスさながら。
「ああ、こんな夢のある“装置”で音楽を楽しんでいた時代があったのだなあ」と目を細めていると、「聴いてみる?」という、ティツィアーノの唐突な申し出にビックリ。でも、ジュークボックスも隣で「さあ」と、呼吸をし始めたではありませんか!
「昔は村の祭りの日にはオーケストラの生演奏で、皆が一晩中踊ってた。で、オケの連中も疲れてくるだろう?そんな時にこいつらの登場ってわけ。親父はこれを全部自分で修理して使ってた。あのとき、自分もその仕事を見習っておけば良かったと後悔しているよ。今はできるところを自分で直して、だましだまし使っている」 
シンバル、じゃんじゃん! タンバリンがパタッパタ、拍子木もチャカチャカチャッ。人の要らない自動演奏なのに、どこか人間のぬくもりを感じさせてくれる音がします。おすそ分けします。聴いてみてください。https://youtu.be/OacfRzBo7TM

どっしり木版と石の重しで最後の一滴までホエーを切るチーズ作り

どっしり木版と石の重しで最後の一滴までホエーを切るチーズ作り

村のど真ん中、小さな空き地の手前に、昔の共同牛乳販売所「ラッテリア(Latteria)」があります。わずかの頭数しか牛を飼えず、搾乳したら加工せずに売るしかないような零細農家が集まって組合組織を作り加工品にしたのが始まりです。その名も「ラッテリア・ソチャーレ・トゥルナニア・ベルベンノ・チェントロ(Latteria Socilae Turnaria Berbenno Centro )」。ここで働くチーズ職人は、ジャンニさん一人だけ。バターを作って、残りで大きめのチーズを作る。残ったホエーを温めて、リコッタを得る。集められた牛乳を最後の一滴まで無駄にしない。やっぱりこつこつと乳製品を作り続けているのでした。

最後にもう一つベルベンノの宝をお見せしましょう! 80歳を超えるおじいちゃんが焼いている、パン屋の作業台です。パンはどこ? 完売、一つも残ってない! それでもおじいちゃんの仕事の息遣いが聞こえる工房の様子をお見せしたいと思います。「僕の写真はダメだよ」って、言われたけど。 イタリアのアルプス地方には、このように世界から忘れ去れたようにひっそりと、でも「珠玉瓦礫に在る如し!」とうなずける村が、まだまだごまんとあるのです。
ラッテリア・ソチャーレ・トゥルナニア・ベルベンノ・チェントロ(Latteria Sociale Turniaria Berbenno Centro)
住所 Via Eva Dea, 24 Berbenno di Valtellina (SO)
営業時間早朝〜正午
休日不定休

岩崎 幹子

飾らない人たちこそ本当に素晴らしいものや味をその指先から生み出していく。見ているだけでワクワクするし、元気が出る。イタリアならではの人という宝を追い続けて20年。日本の皆さんと一緒に彼らを見つめ、作ったものに触れ、そして味わってもらいたい。そんな思いで楽しく水先案内人を務められたら思います。

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