由緒あるローマ貴族が妻に捧げたボマルツォの怪獣公園|やっぱりイタリア好き コラム

由緒あるローマ貴族が妻に捧げたボマルツォの怪獣公園

由緒あるローマ貴族が妻に捧げたボマルツォの怪獣公園

イタリアでは、歴史にうとい人でも、その都市で権力を握ったことがある貴族の名だけは知っているという人が多いから不思議です。それはたぶん、美術館の名前になっていたり、道の名前になっていたり、名字を冠した宮殿が残っていたりするためでしょう。ローマの長い歴史の中では、さまざまな貴族が興隆し没落していきました。その中でしぶとく生き残ってきたのが、オルシーニ家とコロンナ家です。どちらの家からもローマ法王が選出されていますし、ローマの町やその周辺を歩くと、この二つの名前はおのずと目につきます。そして、当然のことながら犬猿の仲で有名でした。
ローマの南部はコロンナ家、北部はオルシーニ家の勢力が強く、私が住むカステッリ・ロマーニ地方はコロンナ家の領土です。
春の風の強いある日、思い立って出かけたのはローマを挟んで北にあるヴィテルボに近い一風変わった公園です。オルシーニ家の一人が、愛する妻に捧げた公園。どんなにロマンチックな公園かと思いきや、公園中に点在するのはなんと怪獣なのです。

ヴィテルボ周辺の小さな町々

ヴィテルボ周辺の小さな町々

そもそも、ヴィテルボは法王庁と縁が深いことで有名な町です。また、温泉が湧いているため、保養地としての歴史もあります。その由緒正しさもあって、周辺の小さな町も美しく整備されているのです。
そんな町の一つ、バッサーノ・イン・テヴェリーナでまずは昼食を。「オステリア・ベルヴェデーレ(Osteria Belvedere di Simone Conti)」は、小高い丘の上から眼下を見下ろす小道沿いにある名店。私たちが到着したときには、ノーベル文学賞受賞者ダーリオ・フォのご子息で作家であるヤコポ・フォ氏がお忍びで来店していました。このあたりはどちらかというと田舎風の料理を売りにするレストランが多い中で、かなり強気の洗練された一品一品が味わえます。

怪獣公園の設計はルネサンスの名建築家

怪獣公園の設計はルネサンスの名建築家

ボマルツォの怪獣公園は、1552年から建設が始まりました。この地の領主であったオルシーニ家の若者が、同じく名門の家系から迎えた妻のために建設を決めたのです。歴史の中に重要な位置づけとなるような業績は残していないこの二人ですが、伝説によると夫婦仲は非常によかったのだとか。
オルシーニ家本家の出身ではなかったものの、ローマの名門一族にふさわしく、ボマルツォの公園は「ヴィッラ・デステ」を設計したピッロ・リゴーリオに依頼されました。なぜ、青年貴族が妻のためにこのような面妖な公園の設計を思いついたのかは謎のままです。当時流行していたグロテスク様式を、ギリシア神話などのテーマを用いて森の中にちりばめたのでしょう。建設当初は、「聖なる森」と呼ばれていたそうです。実際、公園の正式名は現在もこのまま「聖なる森(Sacro Bosco)」となっています。
これもまた伝説ですが、公園内の彫刻は当初、ミケランジェロに依頼される予定であったのだとか。ルネサンス時代らしい豪儀なお話です。
スフィンクスや巨大なカメ、ユニコーン、ドラゴンなど、不気味なのになぜかユニークな作風の彫刻が、森を散策していると次々に登場します。また、わざと斜めに傾けて建てた小さな家は、中に入ると平衡感覚を失い目が回りだすほどです。
中でも最も有名な彫刻は、「鬼」と呼ばれるもの。口から内部に入ることができます。インスタ映え抜群のスポットのためか、広い公園内でもここだけは訪問者が次々とやってきます。公園の入り口付近からは、夫婦が住んでいたボマルツォの壮麗な宮殿の姿も。

怪獣公園は、二人が16世紀後半に亡くなった後は、忘れ去られ放置されていました。そして20世紀半ばにようやく修復され、脚光を浴びるようになります。1948年には、スペインの画家サルヴァドール・ダリもボマルツォの怪獣公園を訪問しています。大自然はそのままに、それを損なうことなく400年も佇み続ける不思議な彫刻たち。グロテスク様式の真髄がそこに見えるようです。

オステリア・ベルヴェデーレ(Osteria Belvedere di Simone Conti)
住所 Via Belvedere 1/3 Bassano in Teverina (VT)
TEL0761 407 546
営業時間12:30~15:00、19:30~24:00
休日月曜
ボマルツォ怪獣公園(Sacro Bosco)
住所 Localita` Giardino s.n.c,01020 Bomarzo (VT)
TEL0761 924 029
営業時間4〜8月8:30~19:00、9〜3月8:30〜日没
休日なし

井澤 佐知子

イタリア生活十数年、ローマ近郊の田舎での生活ほぼ7年。 坂道を上るトレッキングシューズとリュックサックが必須の毎日。ローマの南、風光明媚なカステッリ・ロマーニを拠点に、家族とともに風のようにイタリアのあちこちを物見遊山中。 趣味は書籍の大散財。イタリアの美術、食文化、歴史をこよなく愛する。

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